1月13日、国民に先駆けて中国製ワクチンの接種を受け、安全性をアピールするジョコ・ウィドド大統領(提供:Indonesian Presidency/Abaca/アフロ)

 依然として東南アジアで最もコロナの猛威に晒されているインドネシアで、1月13日、ジョコ・ウィドド大統領自ら、中国シノバック社製の新型コロナウイルスのワクチンを接種した。腕まくりをして左上腕部にワクチン接種を受ける大統領の様子は、テレビで生中継され全国に放映された。なぜなら、この大統領自身インドネシアにおけるワクチン接種の第1号となったからだ。

 大統領自らがワクチン接種を国民に向かってアピールすることになった背景には、国内メディアの報道やネット情報などで、中国製ワクチンの安全性に対する疑問が噴出していることに配慮したためという。

国民の不安払しょくのために「第一号」を買って出た大統領

 別の事情もある。世界第4位の人口約2億7000万人のうち約88%がイスラム教徒という、世界で最もイスラム教徒を擁する国だけに、このワクチンがイスラム教徒にとって禁忌する対象ではない、つまり「ハラル(許されたもの)」であることも、同時に広く訴える必要性があったのだ。

 インドネシアは独自開発や中国製薬会社との共同開発を通じてワクチン開発に取り組んでいるが、同時に中国製、米国製、英国製などさまざまなルートからワクチンの必要数確保に昨年末から懸命に動いている。

 その動きにいち早く応じたのが中国だった。2020年12月6日に中国シノバック社製ワクチンの第1陣120万回分がインドネシアに到着し、ジョコ・ウィドド大統領も「よい知らせだ」と歓迎するなど大々的に報道された。同月末には追加の180万回分も中国から到着している。

 国民からはいち早いワクチン確保を歓迎する声が上がる一方で、中国製ワクチンの安全性、副作用に関する各種情報が入り乱れ「中国製ワクチンの安全性に問題はないのか」という疑問が高まっていた。

 インドネシアが独自に行った中国製ワクチンに対する治験では、その「有効性」は65.3%という結果だった。トルコでの治験では9割以上の数字が出ているが、それに比べればだいぶ低い。そして、おそらくそれ以上にインドネシア国民が関心を寄せいているのは、果たして中国製ワクチンは安全なのか、だ。インドネシア国内でもいまだに議論が続いているが、はっきりいえば中国製ワクチンは不人気だ。

 そうした国民の不安を一蹴するために、ジョコ・ウィドド大統領は自ら「接種第1号」となり、身をもって安全ということを国民に示す必要性があったというわけだ。