与党議員も叫ぶ、「中国製ワクチン」安全性への懸念

 さて、これまでに新型コロナに90万人以上が感染し、2万6000人近くが命を落としているインドネシアで、中国製ワクチンの接種は順調に進むのだろうか。

〈コロナの大流行からこれで解放されることになるだろう。今後接種が順調に進むことを期待する〉

 ジョコ・ウィドド大統領はワクチン接種を受けた際、こうツイートして国民によるワクチン接種への期待を表明した。

 しかし「期待」だけでは終わらなかった。その後、政府は、ワクチンの接種を拒否した国民には「罰金」と「禁固刑」という厳しい措置で臨むことも明らかにしたのだ。

 ところが皮肉なことに、そこまでして「反強制的」にワクチン接種を国民に求める政府の姿勢が、ワクチンの安全性についての国民の懸念をさらに増幅させる事態となっている。

 ジョコ・ウィドド大統領の後ろ盾であるはずの与党「闘争民主党(PDIP)」の議員からも「罰金を支払ってでも中国製ワクチンは拒否する」との声も上がっているのだという。

 さらに、権威あるイスラム教団体が認定した中国製ワクチンの「ハラル」だが、そもそもワクチンにはイスラム教徒が禁忌とする豚由来の成分が含まれているとの情報も一時流れた。これに対してはイスラム教団体が「命に関わる医療目的であれば許されることから接種も問題ない」という論法で、「厳密なハラル論争」を回避したという経緯がある。

 ただ、中国製ワクチンに付きまとう「安全性」と「ハラル」の問題は完全に払しょくされておらず、インドネシアにおける今後のワクチン接種に何かと影響を及ぼすことが考えられる。

 ただ、インドネシアが調達したのは中国製ワクチンだけではない。

 インドネシア政府は、12月31日に英アストラゼネカ社製、米ノバノックス社製からそれぞれ5000万回分のワクチン供給を受ける契約にも漕ぎつけ、中国製以外のワクチン調達にも力を入れている。

 また、1月12日には、ワクチン開発・供給で低所得国などに不公平が生じないように共同出資、購入を促進する国際的な枠組みである「コバックス(COVAX)ファシリティ」の共同議長に、インドネシアのレトノ・マルスディ外相が選出された。

 インドネシアとしては、低所得国などワクチン確保が遅れている国のためCOVAXを通じた調達・供給で指導力を発揮することで、ワクチン調達に関して「中国のワクチン外交にただひざまずくだけの国」といったイメージを払拭したいところだろう。

 一方で中国はワクチン外交を今後も強化するに違いない。ジョコ大統領がワクチン接種を受けた翌日には、中国外務省の報道官は「中国とインドネシアは重要な戦略的パートナーだ」と会見で述べている。

 インドネシア、そしてASEAN諸国は、ワクチンを武器にした中国の猛攻に易々と飲み込まれてしまうのだろうか。