東南アジアではインドネシアに次いでコロナ感染者が多いフィリピン。殺されたマリー医師は、地域のコロナ対策のリーダーだった。*写真は本文と直接関係ありません(写真:ロイター/アフロ)

 フィリピン中部ビサヤ地方東ネグロス州で12月15日、地元自治体で保健行政や新型コロナウイルス拡散防止対策チームの責任者を務めていた女性医師が正体不明の男らに襲撃され、一緒にいた夫ともに射殺されるという凄惨な事件が起きた。

 犯人は現在も逃走中だが、地元メディアなどによるとこの女医は非合法のフィリピン共産党とその軍事部門である「新人民軍(NPA)」と関係がある人物として反共産主義団体が作成したとされる「ブラックリスト」に別名で名前が掲載されたことがあり、女医自身がかねてから「生命の危険を伴う脅迫がある」と語っていたという。

 このため今回の殺害事件の背景には、「共産党やNPAと関係がある」とする真偽不詳の情報があったのは確実とみられている。

 フィリピンではドゥテルテ大統領が就任後に「国内の共産勢力の一掃」を公約として掲げ、大統領としての任期が終わる2022年5月までの「壊滅」を目指して国軍や国家警察による共産党、NPAの掃討作戦が各地で積極的に続けられている。

 12月には国軍幹部が「共産勢力壊滅という政府目標の実現が近づいた」と表明している。しかし、一連の掃討作戦の中には、本人が共産党との関係を完全否定している人物や、信憑性に疑問が残る情報を流布された人物に対する逮捕・殺害も含まれている可能性があり、人権上の問題を指摘する声がある。

帰宅途中に夫婦で銃撃され死亡

 東ネグロス州ギフルンガン市で15日、帰宅途中のマリー・ローズ・サンチェラン医師と一緒にいた夫のエドウィン・サンチェラン氏が、近づいて来た正体不明の男性2人が乗ったバイクから突然銃撃を受けた。マリー医師らは近くの病院に救急搬送されたが、病院到着時にともに死亡が確認された。

 犯人は現場から逃走し、警察による捜査が続けられているものの、これまでに犯人特定に結びつく有力な情報もなく逮捕には至っていない。