バイデン米新政権のASEAN外交方針は現時点では必ずしも明確ではないが、「トランプ政権よりは改善されるのではないか」と言われている。

 そのため王毅外相は、バイデン政権誕生の直前にアフリカやASEAN諸国を訪問して、改めて「ワクチン外交」を積極的に展開し、強くなった関係性をもう一段上のレベルに引き上げようとしたものと見られている。

ワクチン供与の一方で中国船舶がEEZ侵入

 だが中国は生半可な国ではない。ワクチン外交で笑顔を振りまきつつ、一方では鋭い匕首を突き付けることも珍しくない。

 今回も、王毅外相のインドネシア訪問と前後して、南シナ海などのインドネシアの排他的経済水域(EEZ)に中国調査船の侵入が相次いだとの報道が流れた。

「インドネシア海上保安機構(Bakamla)」などによると、1月13日前後に中国の調査船が南シナ海のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域や南方海域、さらにカリマンタン島とスマトラ島の間の海域、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡などを航行していたことが確認されたという。

 インドネシアのEEZへの侵入もあり、海事当局の船舶が警告したものの、中国調査船は「船舶自動識別装置(AIS)が故障していた」との説明を繰り返して「意図的な侵入」を否定したという。

 インドネシア海事当局はこうした中国調査船の「AIS故障」という弁解は「中国側の常とう手段で、AISのわざとオフにしているだけだ」とみて悪質な行動に警戒感を強めている。

 王毅外相の訪問に合わせたような今回の中国調査船の動きについて、インドネシア側は「ワクチン外交とEEZ侵入」という“アメとムチ”であり、両者は全く無関係ではない、と分析している。