1月18日、年頭の記者会見で記者の質問に答える文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 北朝鮮に何度騙されたら気が済むのか。それとも、騙されたふりをして、日本や米国を欺こうとしているのか。

 文在寅大統領は、1月18日の記者会見で「金正恩委員長の非核化の意思は明確だ」、「シンガポール宣言から改めて始めなければならない」との考えを示した。

 しかし、金正恩委員長は今月開かれた朝鮮労働党大会において「核」という言葉を36回使用したものの、「非核化」についてはついに一度も言及しなかった。そればかりか金委員長は、2018年の平昌オリンピック参加以降、米韓、南北と立て続けに首脳会談を行って「朝鮮半島の非核化と恒久的平和の追求を止めてはならない」などとしていた期間にも、実は隠れて核ミサイルの開発を続けていたことを認めている。

 それなのに、文大統領は何を根拠に「金正恩氏の非核化の意思は明確だ」と言うのだろうか。

北に備えるための米韓合同演習の実施を、北と相談して決める?

 ここまで北朝鮮にいいように利用されていながら、なおも文大統領は、「金正恩氏の非核化の意思は固い」と言い張り、米国をこれに引き込もうとしている。そして、その働きかけの先頭に立つよう期待されているのが、新しく外交部長官(外相)に任命された鄭義溶(チョン・ウィヨン)前国家安保室長である。

 文在寅大統領は、北朝鮮に対しては徹底して弱腰だ。朝鮮労働党大会で金正恩委員長が米韓合同演習に関して、「先端軍事装備の搬入と、米国との合同軍事演習を中止しなければならない」と述べて反対すると、文大統領はすぐさま前述の記者会見で「必要であれば、南北軍事共同委員会を通じ北朝鮮と協議できる」である。

 北朝鮮からの攻撃に備えるための合同軍事演習なのに、その敵と協議するというのだ。開いた口が塞がらない。