1.極超音速兵器滑空弾(HGV)の起源
冷戦後、特に2001年の同時多発テロ以以降は、米国に対する迫った脅威は一部の「ならず者国家」や国際テロ組織等の非国家主体による予期し得ない攻撃へと変化した。
米国は、それらの脅威に対応するためには、多様な脅威に対してあらゆる時と場所で対抗し得る幅広い能力を身につけなければならないという考えに至った。
そして、国防総省(ペンタゴン)は、「迅速なグローバル攻撃(PGS:Prompt Global Strike)」構想を発表した。
PGS構想の背景にあったのは、当時の核軍縮の潮流と米軍の「在外米軍の再編(前方展開態勢の見直し)」の動きである。
PGS構想はのちに「通常兵器による迅速なグローバル攻撃(CPGS)」構想に名称が変更された。
CPGS構想とは、「世界のいかなる場所に所在する標的に対しても、1時間以内に命中精度の高い“非核兵器”によって、敵のアクセス拒否能力を突破して迅速な打撃を与えようとするもの」である。
そして、通常弾頭搭載のトライデント・ミサイル構想が打ち出された。
しかし、トライデント・ミサイル構想は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)と「通常弾頭搭載型打撃ミサイル(CSM:Conventional Strike Missile)」との区別が困難なことから、中止された。
続いて、米国は2003年にファルコン(FALCON:Force Application and Launch from Continental United States)計画を発表した。
この計画は、米本土から1時間以内に地球上のどこにでも到達でき、精密誘導弾や運動エネルギー弾を投下できるシステムを、2025年頃を目指して開発しようとするものであった。
2010年4月22日に極超音速技術機(HTV-2:Hypersonic Technology Vehicle)の初飛行テストが行われた。
ファルコンHTV-2は使い捨て型ロケットよって打ち上げられ、ブースターから切り離された後マッハ20で4800マイル(7700キロ)を飛行したが、飛行開始後9分でテレメトリが途絶したため強制的に飛行を終了した。
2011年8月に2度目の飛行テストが行われたが9分後の滑空中に通信が再び途絶えた。そして、HTV-2をもってファルコン計画は終焉した。
筆者は、このファルコンHTV-2が、現在各国が開発しているHGVのモデルになっていると考えている。
下図1および下図2はそれぞれ、ファルコン極超音速HTV-2の飛行パターン図およびイラスト図である。
図1 HTV-2の飛行パターン図

図2 HTV-2のイラスト図
