3.主要国の極超音速兵器の研究開発計画

 極超音速兵器の性能諸元については各資料により差異があるので、本項では、米議会調査局の調査報告書(2020年8月27日)を参考にしている。「筆者加筆」等の但し書がない限り、本項の情報・データの出典は同調査報告書である。

(1)米国

ア.全般

 米国は、2000年代初頭以来、「通常兵器による迅速なグローバル攻撃(CPGS)」プログラムの一環として極超音速兵器の開発を積極的に追求してきた。

 近年は、地域紛争で使用する短距離および中距離のHGVおよびHCMに重点をおいてきた。

 これらのプログラムへの資金提供は過去に比較的抑制されていたが、最近は、国防総省と議会とも、極超音速兵器システムの開発と今後短期間に配備することを追求することに強い関心を示している。

 これは、ロシアと中国の極超音兵器によってもたらされる戦略的脅威に関する米国の関心が増大したためである。

 公開情報によると、中国とロシアはHGVの複数のテストに成功し、両国とも早ければ2020年には実戦配備すると見込まれている。

 しかし、米国の政策立案者などの間では、ロシアと中国の極超音速兵器が、戦略的安定性および米軍の競争上の優位性に与える影響について意見が分かれている。

 2019会計年度のジョンS.マケイン国防授権法により、米国の極超音速兵器の開発は加速したが、米国が2023年以前に極超音速兵器システムを実戦配備する可能性は低い。

 また、米国の極超音速兵器プログラムは、ロシアと中国とは対照的に、核弾頭の使用を想定していない。

 そのため、米国の極超音速兵器には、核弾頭搭載の中国やロシアのシステムよりも高い精度を必要とし、開発が技術的に困難になる可能性がある。

イ.極超音速兵器プログラム

 米国は多くの開発中の極超音速攻撃兵器プログラムを推進中である。次にそれらを列挙する。

➀米海軍-「通常兵器による迅速攻撃(Conventional Prompt Strike:CPS)」

 CPSは、共通滑空飛翔体(common glide vehicle)(注2)と潜水艦発射ブースターシステムを組み合わせて構成される。2028会計年度にバージニア級原子力潜水艦で初度作戦能力(IOC)を達成する予定である。

(注2)共通滑空飛翔体は全軍種が使用することを前提に海軍が開発したものである。

②米陸軍-「長距離極超音速兵器(Long-Range Hypersonic Weapon: LRHW)」

 LRHWは、共通滑空飛翔体と海軍のブースターシステムを組み合わせて構成される。1400マイルの射程を目的とし、2023会計年度に飛行テストが予定されている。

③米空軍—「AGM-183A空中発射型即応兵器(Air-Launched Rapid Response Weapon:ARRW)」

 ARRW計画では、米国防高等研究計画局(DARPA)の戦術ブーストグライド(TBG)を活用して、射程約575マイル、マッハ20の「空中発射型HGV」のプロトタイプの開発が見込まれている。

 2023年までに飛行テストの予定である。

 2020年2月、空軍は極超音速通常型攻撃兵器(Hypersonic Conventional Strike Weapon:HCSW)をキャンセルした。

 これは、ARRWは小型であるため、戦略爆撃機「B-52」にHCSWの2倍の数のARRWを搭載できる可能性があること、および戦闘機の「F-15」でも搭載できる可能性があることから、空軍がHCSWでなくARRWを選択したためである。

④DARPA-「戦術ブーストグライド(Tactical Boost Glide:TBG)」

 DARPAは、空軍と協力して、マッハ7以上のくさび形のHGV(TBG)のテストを継続している。

 TBGプログラムは、将来、戦域で使用する「空中発射型TBG」システムの技術の開発と実証を目的としている。少なくても2021年まで試験実施の予定である。

⑤DARPA-「地上発射型HGV(Operational Fires:OpFires)」

 DARPAのOpFiresプログラムは、TBGを活用して、「現代の敵防空システムに侵入し、素早くかつ精密にタイムクリティカルな標的を攻撃する」ことが可能な地上発射型システムを追求していると報道されている。

 少なくても2021年まで試験実施の予定である。

⑥DARPA-「極超音速吸気式兵器コンセプト(Hypersonic Air-breathing Weapon Concept:HAWC)」

 DARPAは空軍の支援を受けて、効果的で手頃な価格のHCMを実現するための重要な技術の開発と実証を目的とするHAWCプログラムを長期間継続している。

 HAWCやその他のHCMは、HGVより小型であるのでより広範なプラットフォームから発射が可能である。2020会計年度中に飛行テスト試験を完了する予定である。