中国潜水艦が接続水域を潜没して航行することは国際的に認められている。

 しかしながら、沿岸国を無用に刺激することを防ぐため、他に航行できる海域がある限り、接続水域の航行を避けるのが一般常識である。

 それでは、なぜ中国潜水艦は接続水域内を航行したのであろうか。

 その理由としては、位置測定誤差が考えられる。

 潜没航行中は測位衛星からの信号を受信することができないことから、慣性航法装置を使用する。

 慣性航法装置は針路、速力および予測される外力を加味し自艦位置を推定する。このため、長時間使用していると誤差が蓄積される。

 接続水域内を航行しているにもかかわらず、それを認識していないというケースである。

 誤差を補正するためにソーナーによる海底地形照合を行う方法があるが、正確な海底地形図を保有する必要がある。

 ⑤の奄美大島と横当島間を通過したケースの場合、領海侵犯を侵さずに最小幅約10キロ内を正確に航行している。

 潜没航行時に高い精度の航法能力を保有していると見られ、意図せずに接続海域航行したという可能性は低いものと考えられる。

 意図的に接続水域を航行したとすれば、その理由として挙げられるのは、①情報収集、②海上自衛隊の対応能力検証、③追尾からの離脱である。

 潜水艦は対象国の監視の隙をついて、隠密裏に情報収集することができる。収集対象によっては陸岸に近づく必要があり、探知される危険性が高まる。

 潜水艦にとって隠密性がその命であり、探知された場合、その能力や存在意義は低下する。探知された場所によっては、外交問題につながる可能性もある。

 情報収集や、自衛隊の対応能力の検証を目的として接続水域を航行する可能性はゼロではない。しかしながら、中国潜水艦にとって、日米の兵力から継続的に追尾されることは大きな屈辱であり、あえてその危険を冒すほどの利点がある場合に限られるであろう。

 一方で、防衛省の公表は、潜没潜水艦が接続水域に入ってからとなっているが、それ以前から継続して追尾していることは確実である。

 沿岸海域は対潜兵力の活動を制約し、音響状況も複雑であることから、追尾から逃れようと苦し紛れに接続水域に入った可能性がある。