では日本との関係はどうか。日本のある公安関係者は、「現時点ではアメリカのアンティファとの具体的な関連性はつかめていません」と語る。「関与している人たちはアメリカの『スタイリッシュな活動』に刺激されて、自分たちの活動にそのスタイルを取り入れているのです」

 ただ実はアメリカでフロイドさんの死亡をめぐる抗議デモが起きる前から、日本でもアンティファの存在が確認されている。

「もともと過激なヘイトスピーチで物議を醸してきた保守系団体の『在日特権を許さない市民の会(在特会)』に対してカウンター(対抗活動)をしていた反右派の『レイシストをしばき隊』が『対レイシスト集団行動』(C.R.A.C.)というグループになった。そしてC.R.A.C.は2013年に安倍晋三首相を『ファシスト』であるとして糾弾するようになったのですが、その頃にC.R.A.C.周辺に『アンティファ』を名乗る集団も現れるようになった」(公安関係者)

 当時、北海道や静岡、広島などではアンティファを名乗る団体が登場している。だが「今は多くが活動していない」(公安関係者)という。

日本国内のデモ活動で目撃されるようになったアンティファの旗

 そのアンティファが、今年になって再びあちこちに姿を見せるようになっている。例えば、2月には神奈川県川崎市で、在特会の街宣活動へのカウンターをする人々の中にアンティファの旗を振る人たちが確認されている。

 また5月に行われた安倍政権の新型コロナウイルス対策を糾弾する新宿区内でのデモ活動にもアンティファが参加している。ここでは、外国人男性がドイツ語で「ANTIFASCHISTSCHE AKTION」と書かれたアンティファの旗を掲げていた。

 また同月17日には、大きな騒動になった検察庁法改正に反対する全国的な抗議デモでも、アンティファが主催団体に名を連ねている。

 そうした中、5月25日にアメリカで黒人のフロイドさんが警察に殺害される事件が起き、全米で「Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター=黒人の命は大事だ)」と主張する抗議デモが発生した。すると日本でも同様の「Black Lives Matter」のデモが東京や大阪で行われたのだが、「それに便乗する形で自称アンティファが姿を見せている」(公安関係者)。

 さらにこうした背景がある中、5月22日に渋谷区内である“事件”が起きる。警察が、在日クルド人に対して厳しく職務質問をした。その様子を収めた動画でネットで拡散され、ツイッターなどを中心に騒動になったのだ。そのクルド人男性が不当に扱われたと主張したことで、アンティファなどが中心となって人権問題だとして渋谷警察署に向かってデモ行進を実施した。300人ほどで始まったこのデモだったが、解散時には800人ほどにまで膨れ上がった。多くの外国人とみられる人たちが渋谷の街を練り歩いた。

 要するに、これまで在特会などへのカウンターとして活動していた人たちが「スタイリッシュなアメリカの活動」(公安関係者)に感化されて、「Black Lives Matter」やクルド人の一件、さらに入管での外国人への処遇問題を機に、デモ活動を活発化させるようになったのだという。