(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
米国中西部ミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性暴行死に抗議するデモは、全米に広まった。
これに対して、トランプ大統領の強硬姿勢が、さらなる反発を招いた。ツイッターでデモ参加者を「悪党」と呼び、「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と書き込み、暴動の鎮圧に連邦軍の投入まで示唆した。支持率は50%を割り込み、11月の大統領選挙で民主党の指名が確実なバイデン氏が州によっては支持率が上回るなど、再選が危ぶまれている。
しかし、ミネソタ州からはじまった全米規模のデモは、むしろトランプの支持をより強固なものにしているように思えてならない。
米国の「少数派」に転落寸前の白人
そもそも、米国の白人の数は減り続けている。1980年に人口の8割を占めた白人は、4年前の大統領選挙時には62%に過ぎなかった。このままいくと、2040年代には黒人やヒスパニック系にとって代わられ、白人が全人口の半分を割り込んでマイノリティに転落する。実際に、今年中には18歳以下の人口は白人が5割を切る見通しだ。
その白人の恐怖と不安が、トランプの支持につながった。
「Make America Great Again !(アメリカを再び偉大に)」
トランプはそう叫んで4年前の選挙を戦ったが、この言葉は白人にしか響かない。それもそうだ。かつての偉大な米国を知っているのは、白人だ。それが白人の出生率が低下し、代わって黒人やヒスパニックの人口が増加していく。その黒人やヒスパニック系の人々は、白人ブルーカラー(労働者)にとって、彼らの仕事を奪い、また彼らの国を侵略する存在に映る。トランプはそんな彼らを「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」と呼んだ。サイレント・マジョリティがトランプを大統領に選んだ。
この「サイレント・マジョリティ」という言葉を最初に使った大統領は、トランプではない。第37代大統領のリチャード・ニクソンだ。
1969年11月3日のテレビ演説の中で「グレート・サイレント・マジョリティ」と呼びかけた。当時は、ベトナム戦争が長期化、泥沼化していて、米国内には反戦運動が高まっていた。
だが、声高に反戦を叫び、活発に運動しているのは、実は少数派であって、国民の多くは声にしないだけで戦争には賛成しているはずだ。この戦争を勝利に導くと誓い、支持を求めたのだ。
「米国を敗北させ、貶めるのは、北ベトナムでない。(戦争に反対する)米国人だ」
ニクソンはそう訴えた。