高橋 これまでの仕組みだと、バスの路線網は民間事業者が主体となって決めていて、国はそれに免許を与えるという消極的な役割しか担ってきませんでした。もちろん、地方自治体が採算のとれない路線に補助金を支給することも多いのですが、その役割は二次的なものでした。その結果、近隣エリアに複数の路線が引かれていたり、路線の重複が起きたり、あるいは、路線のない「空白域」ができる。効率の悪い交通網が生まれていたのです。

 同じ地域とはいえ、民間事業者がそれぞれ路線を開設するのでは、どうしても非効率な計画になります。そして過疎化が進むと、そういった非効率な路線は採算が悪くなってしまうのです。

 一方で、いくら採算の悪い路線でも、簡単には廃止にできません。その路線をなくせば利用者の移動手段が完全に途絶えるケースがありますし、先ほど述べたように、自治体からの補助金が出ています。結果、赤字のまま路線を続ける事業者が増えていきました。

市町村が主体になると、なぜメリットが生まれるのか

――この問題に対し、どんな動きがあったのでしょうか。

高橋 国や民間事業者ではなく、市町村が主体となってエリア内の交通網、路線計画を組み直せるようになったのです。2007年に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」です。

 今までのように民間事業者がそれぞれ計画するのではなく、市町村がイニシアティブをとって交通網を再整備する。すると、バラバラだった路線、非効率だった路線を、市町村がひとつの視点で整理・統合できます。そして、市町村が作成した再編計画に対し、民間事業者は原則協力する。加えて、国や地方自治体は補助金を出す。そういった法律がつくられました。

――結果、どのような整備が可能になったのでしょうか。

高橋 たとえばバスの既存路線について、利用者が少なく採算の取れない部分は廃止したり、路線が重複していた場所は必要がなければバスの本数を減らします。ただし、路線バスが廃止されたエリアには、デマンド・バスを設定して、交通空白域をなくします。他方で、市街地に近く利用者が見込めるところは路線バスの本数を増やして利便性を高めます。というように、エリア全体の人の動きや実態を見ながら、効率やバランスを重視した交通網を再編できます。

――その方が利用者の実態にあった交通網ができそうです。ただ、主体者となるのは市町村ですよね。行政の職員は地域交通の専門家ではないので、難しい部分もあるのではないでしょうか。

高橋 その点は考えられます。ですので、実際は地域の大学や研究機関、あるいは民間事業者と意見交換しながら整備していると言えます。国としてもここに懸念を持っていて、行政担当者を集めた説明会を手厚く行っていますね。また、全国の市町村における「事例集」をウェブサイトに掲載するなど、各自治体のノウハウ共有にも力を入れています。

 なお、こういった再整備では、必ずしも一方的に「路線をなくす」「ダウンスケールさせる」ことは得策ではありません。それは地域の民間事業者の経営を圧迫する可能性もあるからです。すると、かえって再整備がその地域に逆効果になることもあり得ます。

――詳しく教えてください。

高橋 地方部の交通事業者は、地域経済の重要な位置を占めています。当然、企業規模も大きく、そこに勤務する地元の方も多い。もし無下に路線を減らし、経営が厳しくなった場合、地域経済への悪影響もでてきます。交通を切り口に市民の生活を良くしようとしたものが、結果的に市民の生活を圧迫する可能性があるのです。バランスを考えながら再整備しなければなりません。

――なるほど。もしよろしければ、具体的にどんな再整備の事例があるのかうかがいたいです。

高橋 わかりました。特に大規模な計画が進んでいるのが、宇都宮市です。詳しい内容については、次回お話ししましょう。

(つづく)