図1をごらんください。水色の丸は、これまで観測された超新星の見かけの明るさです。

 もしも宇宙膨張の加速がなく、超新星の明るさが変化しないならば、観測データ(丸)は水平線上に並ぶはずです。が、観測データは水平線から上にずれています。

 このずれは、宇宙膨張の加速(黒いカーブ)による、というのが標準的な解釈です。このずれからダークエネルギーが宇宙空間を満たすという結論が導かれるわけです。

 けれども今回の発表によると、超新星の明るさが時代によって変化する効果(赤いカーブ)でも、水平線からのずれを説明できるというのです。

 もし宇宙膨張の加速が必要ないなら、宇宙項もダークエネルギーも必要ありません。

図1:Ia型超新星の見かけの明るさと距離の関係。横軸は、超新星の距離を赤方偏移パラメータzで表わした値で、遠いものほど右。縦軸は、超新星の見かけの明るさのハッブルの法則からのずれ。丸印は別のグループによる測定データ。黒いカーブは、宇宙膨張の加速による予想値。赤いカーブは、超新星の明るさの時代による変化による予想値。どちらのカーブでも、測定データを説明できる。

ダークエネルギーの運命や如何(いか)に

 さて今回の発表が正しくて、ダークエネルギーは一時の幻となるのでしょうか。私たちはあとで振り返って「どうしてあんなもの信じていたんだろう」と訝(いぶか)しむのでしょうか。(そういうことは宇宙論の歴史において何度もありました。) それともやはり宇宙膨張は加速しているのが本当なのでしょうか。

 李教授によると、この結果は「ノーベル賞にもつながったダークエネルギーの発見が、はかない偽りの(fragile and false)仮定に基づく作り物(artifact)かもしれないことを示している」と、かなり強気です。

 どんな研究結果も、観測事実に照らして、検証していくのが科学の手法です。この発表は宇宙論業界に論争を巻き起こしたところです。李教授によると、高赤方偏移超新星探索チームのリース教授とも議論中とのことです。またこの発表がきっかけとなって、膨張加速を検証する観測研究が今後次々行なわれるでしょう。

 ダークエネルギーの運命や如何に。期待して決着を待ちましょう。(たぶん20年くらいかかります。)

*1延世大学校プレス・リリース(2020/01/05)
*2:Yijung Kang, Young-Wook Lee, Young-Lo Kim, Chul Chung, Chang Hee Ree, 2020, “Early-type Host Galaxies of Type Ia Supernovae. II. Evidence for Luminosity Evolution in Supernova Cosmology”, ApJ 889, 8.
*3:ジョージ・ガモフ『わが世界線』(『宇宙=1、2、3…無限大』(白楊社)に所収)