サウジアラムコの安全保障上のリスク

 投資型の経済に舵を切ろうとしているサウジアラビアにとって中核を担うのが政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」である。だが、このところ資金不足の状態が続いている。PIFは10月30日、国際金融機関10社から合計100億ドルの融資を受ける契約を結んだと発表した。サウジアラビア政府は保有する国営石油化学企業サウジ基礎産業公社(SABIC)の株式を国営石油会社サウジアラムコに売却したが、この代金を手にするまでのつなぎ資金が必要となったからである。

 PIFがフル回転するためにはサウジアラムコのIPOによる大量の資金投入が不可欠である。2018年以降たびたび延期されてきたサウジアラムコのIPOは、11月3日から正式な手続きが始まり、サウジアラビア証券取引所で12月11日に取引が開始される段取りとなっている。企業価値2兆ドルに及ぶサウジアラムコ株式の5%を広く海外に公開し、1000億ドルもの資金を調達することが当初の計画だった。しかし、計画は大きな変更を余儀なくされている。

 今回決定されたのは国内のみであり、IPOの4割以上を中核投資家でカバーするとしている(10月23日付ロイター)。中核投資家とは王族や国内の富裕層のことを指すが、その実態は「彼らに対して半ば強制的にサウジアラムコ株を高値で割り当て、450億ドル以上の資金を調達する」との見方が一般的である。

 一方、海外上場の実現の目途は立っていない。株式の評価額を巡る見解の相違などが取り沙汰されているが、ロシア国営石油会社ロスネフチのセチンCEOは「石油施設への大規模攻撃でサウジアラビアは信頼できる原油供給国としての立場に疑念が生じている」と述べたように、サウジアラムコ自体の安全保障上のリスクが最大の障害ではないだろうか。

 9月14日に発生したサウジアラビアの石油施設への大規模攻撃に際し、「『攻撃目標を特定するためにグーグルアースの衛星画像を利用した』とサウジアラビア当局者が明らかにした」という驚くべき情報が出てきている(11月1日付ZeroHedge)。10月下旬、米軍はサウジアラビアの空軍基地にステルス戦闘機(F22)やB1戦略爆撃機を到着させ、デモンストレーションを行った。だが、誰もが入手しやすい手段で大規模攻撃を仕掛けることが可能になった現在、その抑止効果は限定的なものになるだろう。

 サウジアラビアでは10月23日、イラン強硬派に代わり親欧米派のファイサル王子(40歳代)が指名されるなどの動きが出ているが、サウジアラビアが主導するアラブ連合軍はイエメンの北部と西部での空爆を続けており、イエメンを巡る緊張状態が続いている。アラブ現地紙によれば、イスラエルもイエメンへ軍事介入しかねない情勢にもなっており、サウジアラムコのIPO後に同社の石油施設への攻撃が再び起きる可能性は高まるばかりである。そうなれば株価は暴落、サウジアラビア国内に渦巻く不満は一気に爆発してしまうのではないだろうか。

 英誌エコノミスト(11月2日号)は、「アラムコ上場が映す石油の終わり」と題する記事の中で、「サウジアラムコ上場は石油の時代に終わりが見えてきた兆しであると同時に、政治や経済に大混乱を及ぼす石油の威力が今後数十年衰えないことを示している」と述べている。その悪影響を最も受けるのは、日本である。