香港の民主化を求めるデモは、犯罪者引き渡し条例の撤回声明後も収束する気配はなく、長期化するであろう。

 経済面でも中国は、米中貿易戦争が起きる前から、「新常態」と言われる低成長に移行していた。それが米中貿易戦争に伴いさらに悪化している。

 米国への輸出品に対する米側の関税引き上げ、それに伴う対米輸出の停滞、国内での企業倒産と失業者の急増、外国企業のインド・東南アジアなどへの移転、外資の中国投資の手控え、資金の国外逃避、外貨不足、元安と株価の下落などの現象が起きている。

 このため、中国国内の経済・金融情勢は悪化し、今後さらに失業者が増加し、社会不安も高まっていくことと思われる。

 その意味でも、習近平政権としては、香港や台湾の民主化運動が大陸に波及することを極度に警戒しているとみられる。

 香港暴動を力で鎮圧することは可能であろうが、弾圧に踏み切れば、第2の天安門事件となり、国際的な反発を呼ぶことは必定である。

 その結果、外国企業と外資の中国からの逃避、元の暴落と外貨の不足、米国の関税引き上げその他の追加的な対抗措置による輸出縮小など、経済と金融秩序も崩壊するおそれがある。

 それは、全国的な暴動などの社会秩序の破綻、ひいては共産党独裁体制の崩壊すら招きかねない。

 このように、習近平政権は巨大な軍事力を一手に指揮統御する体制を確立したものの、それを有効に生かせないままに、米国の貿易戦争と台湾、香港での民主派の活動という、間接的に中国共産党独裁体制崩壊を促進する諸要因により、身動きの取れない窮状に追い込まれつつあると言えよう。

情報化社会が独裁体制にもたらす結末

 もう一つの重要要因として挙げられるのは、中国が得意としてきた心理戦、輿論戦、法律戦(「三戦」)に代表される、広義の「情報戦」である。その目標は相手国の人心の変容、すなわち『孫子』の言う「謀を伐つ」ことにある。

 典型的な新ドメインはサイバー空間である。

 サイバー攻撃により、個人であれ国家主体であれ、狙った相手国国民の意識を変え抵抗意思を奪えば、『戦わずして、人の兵を屈する』ことができる。

 情報化社会においては、サイバー空間を利用し、ほとんどコストをかけることなく、相手に正体を知られることなく匿名で、世界のどこに対しても誰に対しても、いつでも奇襲的なサイバー攻撃が可能である。

 サイバー攻撃と共に、通常のインターネット空間においても、匿名性を悪用して、フェイク・ニュースの大量拡散などによる、受け手側の心理操作も容易にできる。

 また、国家主体が組織的かつ広範に専門のサイバー部隊によって情報戦を行えば、相手国の輿論誘導や選挙介入、社会不安の増長、大量の秘密情報の窃取も可能になる。