一般に民主国家の言論空間では、開放性、言論の自由とプライバシーの尊重が前提になっているため、独裁体制に比較して、この種のフェイク・ニュースなどに脆弱である。

 中国は独裁体制下で先端的なIT技術を駆使してデジタル監視社会を創り、人民一人ひとりを厳しい監視下に置き、反抗、反体制の芽を早期に摘み取り、社会全体の統制を強化することにより、共産党独裁体制を維持強化しようとしている。

 しかし、そのような手法は、いったん社会秩序が弛緩し、ネット空間の統制力が弱まれば、反体制派、民主派、少数民族などの抵抗勢力が相互に連絡を取り、共同行動を起こすことも可能にすることになる。

 いま香港で起きているデモも、そのような民主派の、自然的なSNSを介した横の連帯が生んだものであろう。

 天安門事件当時に比べ体制側の治安維持能力や暴動鎮圧能力が質量ともに強化されているにもかかわらず、効果的なデモの取り締まりができないのは、そのような反体制派、民主派の抵抗組織の柔軟性と参加者相互の情報交換のネットワークの強靭さによるものであろう。

 今後も、情報化は加速的に進展していくものとみられるが、共産党独裁体制がいつまでもネット空間を監視し支配できることはないであろう。

 皮肉なことだが、中国が世界に先行しているとする5Gの進歩が、中国共産党の監視や統制が利かない、情報の量と速度の交換を実現し、体制を揺るがすことになる可能性は高い。

 ソ連が崩壊したのも、ロナルド・レーガン政権が挑んだ、軍拡競争による経済破綻が原因ではない。そのような大規模な軍拡をゴルバチョフ政権は行っていない。

 むしろゴルバチョフ氏が奨励した「グラスノスチ」と言われる情報の開示、自由な発言の容認が、体制のタガを弛緩させ、その隙間からまず東欧圏で、次いでソ連国内で、一気に噴出した自由と民主化を求める民衆の声を軍や警察力でも抑圧できなくなったことが原因である。

 同じことはいずれ、中国共産党の独裁体制でも起こるものとみられる。ソ連軍は米軍と並ぶ、世界第2の軍事大国であった。それでも、体制を締め付けていたタガが緩むと、ほどなくして内部から崩壊してしまった。

 冷戦末期、東欧では家々に鍋などを改造したパラボラアンテナが立てられ、西側の衛星放送を民衆は見ていた。

 西側の自由と豊かさを東欧の民衆は熟知していた。共産党の嘘にも民衆はとっくに気づいていた。同じことは、中国でも都市部などを中心に起こっている。

 香港や台湾の民衆と同じ思いを、中国大陸の多くの民衆も共有しているはずである。後はいつ独裁のタガが緩むかというタイミングの問題であろう。

 しかしその時期はそう遠くはないとみるべきであろう。それほど、情報のグローバル化の速度と変化は激しい。

 習近平中央軍事委員会主席の権力は、制度的には過剰なほどに保証されているが、それがどれほど実を伴ったものか、どれほどの将兵が、自らの命に代えても、習近平と中国共産党の独裁を守り抜く覚悟を固めているのかは、誰にも分からない。

 ソ連という巨大な社会主義帝国が崩壊した時、ソ連に殉じ自決したのは、アフロメーエフ元帥ただ一人であった。