もしトランプが金正恩と合意に達して北朝鮮のICBM計画が停止したとしても、日本に対する北朝鮮の直接的軍事脅威が軽減することにはならない。日本にとっての軍事脅威はICBMではなく、準中距離弾道ミサイルならびに中距離弾道ミサイルだからだ。だが、トランプ大統領はICBM以外の「飛距離の短い」すなわち「アメリカ本土には届かない」ミサイルには関心がない。

 それらの「飛距離の短い」ミサイルに核弾頭が装着された場合には、トランプ政権としても関心を示さざるを得なくなるであろうが、非核保有国である日本に対して発射される可能性が大きいのは、核弾頭搭載ミサイルではなく非核弾頭搭載ミサイルである。核弾頭が搭載されていない「飛距離の短い」ミサイルにトランプは関心を示さない。

 つまり、ICBMではなく、核弾頭が搭載されていない、対日攻撃に用いられる弾道ミサイルは、今後トランプ政権にとって関心の外となり、敵視する対象ではなくなるというわけだ。

 それだけではない。数多くの弾道ミサイルが日本に突きつけられていれば、そして日本政府がこれまでどおりに弾道ミサイルへの対抗策を弾道ミサイル防衛システムだけに頼り切るという誤りから目を覚まさない限り(本コラム2018年12月13日「台湾を見習え 日本に決定的に欠ける報復攻撃力」、拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』など参照)、トランプ政権は日本に対してより一層弾道ミサイル防衛システムの売り込み攻勢をかけることができることになる。

 北朝鮮からは弾道ミサイルを突きつけられ、アメリカからは弾道ミサイル防衛システムを売りつけられる、まさに日本にとっては悪夢の始まりである。