もちろん正常化といっても、それは表面的な“とりあえず”の外交関係正常化にすぎない。ICBM以外の軍備問題をはじめ独裁統治体制や人権蹂躙問題などには踏み込まず、ともかくICBM問題さえ妥結すれば双方にとって満足できるという意味での正常化である。

 トランプ政権発足後しばらくの間、マティス国防長官やマクマスター補佐官が健在であった時期には、北朝鮮の核開発能力とミサイル開発能力の全てを葬り去ることが目標に掲げられていた。しかし、このような核・ミサイル開発能力の完全なる排除を目指す限り金正恩とのディールはありえないと見て取ったトランプは、自らの政治目的である米朝関係の進展を達成させるためには、アメリカ自身が直接軍事攻撃を受ける可能性のあるICBMの除去だけに焦点を絞ることが手っ取り早いという決断を下したのであろう。

 しかしながら、北朝鮮から核・ミサイル開発能力の全て(あるいはその大半)を除去すべきであるとの立場だった元海兵隊大将マティス国防長官や陸軍中将マクマスター補佐官たちが政権を去った後も、ボルトン補佐官は北朝鮮に対する妥協は絶対に容認しないという姿勢を堅持していた。そのためトランプ大統領の政治的目的は進展を阻まれていたのである。

日本にとっては悪夢の始まり

 そのボルトン補佐官が政権から去った。これによってトランプは金正恩と「手打ち」するためにさらなる一歩を踏み出すことになるであろう。

 トランプ大統領がICBM開発の制限だけに焦点を絞ることは、金正恩政権にとっては悪い話ではない。所詮、北朝鮮にはアメリカと一戦を交えることなど不可能な話なのだ。

 しかしながら、日本にとってはまさに安全保障上の悪夢の始まりとなる。