さらに効果があるのが現場のモニタリングだ。「本当に工事をやっているのか、投資が使われているか、日々のオペレーションを蓄積する。これは不正に対するけん制の意味もあります」。

 そして、建設後のメンテナンスも可能だ。「一度インフラを作ると、なかなか現地に行かないじゃないですか。衛星を使えば遠隔でモニタリングできます。インフラの計画を作って建設し維持する。現地に行かなくても、全体を同じ質の衛星データで数人で管理できる」

 シンスペクティブは、このインフラ開発について他社の衛星データを活用して分析を行い、ソリューション事業としてすでにビジネスを稼働させている。

強みは、衛星製造から課題解決までの「ワンストップサービス」

シンスペクティブ創業者でありCEOの新井元行氏。米系コンサルティングファームにて、 5年間で15を超えるグローバル企業の新事業/技術戦略策定、企業統治・内部統制強化などに従事。その後、東京大学での開発途上国の経済成長に寄与するエネルギーシステム構築の研究を経て、サウジアラビア、バングラデシュ、ラオス、カンボジア、ケニア、タンザニア、そして日本の被災地等のエネルギー、水・衛生、農業、リサイクルにおける社会課題を解決するプロジェクトに参画。

 自社の衛星打ち上げに先駆けて、他社の衛星データでソリューション事業を始めたのはなぜか。「現場のニーズを知って衛星の設計に反映できる」と、新井氏はメリットを説く。これは画期的なことである。

「衛星の開発は、これまで政府や大学などのアカデミアが中心に仕様を決定してきました。でも新しいマーケットは一般の民間企業。そもそも使い方が分からないわけです。そこを顧客と一緒に考えながら、衛星がどういうスペックならビジネスとして成り立つか、どんなセンサーが必要か、マーケットのニーズを知ることで衛星の設計に反映させることができます。そうでないと衛星がオーバースペックになってしまう」

 従来、衛星開発は高性能がいいと思われてきた。だが顧客が必要としない機能や性能を持っていても、コストが高くなるだけで現場では使えない。一方、シンスペクティブは衛星開発から運用、データ取得、さらにデータから顧客が必要な情報を抽出しすぐ使える形で提供するまで、トータルで行う。顧客のニーズを知るからこそ、使いやすい衛星を自社で開発できる。ここまでワンストップで行う企業は世界に類を見ない。SAR衛星黎明期に他社から頭一つ抜け出る最大の「売り」だ。

 特に力を入れるのがデータ分析だ。雨天でも夜でも観測できるSAR衛星は万能に思えるが、弱点は分かりくいこと。