「(光学衛星並みに)地上の数m程度の物体を識別し膨大なデータを送るSAR衛星の実現には、大型アンテナや大出力・高速通信が必要です。例えば、従来の大型SAR衛星は、質量約1.2トンの高性能大型衛星でコストは100億円以上。打ち上げ費も100億円以上かかり、ビジネスにならない。一方、日本は、JAXAや東大、東工大などが小型軽量化のSAR衛星の技術開発に成功したのです」

 SAR衛星の小型軽量化というブレイクスルーを実現させたのは、政府の革新的研究開発プログラム(ImPACT)。「分解能1m、質量100kg、コスト5億円以下」という目標を掲げた。

 従来のSAR衛星に比べコスト20分の1、重さ10分の1を実現できた肝は、アンテナと送受信機にある。長さ5mと大型衛星と同等ながら折り畳み式の超薄型アンテナ、従来は多数搭載していた送受信機を中央に1つの搭載にしつつ、電波が同じ位相で出る機構など、独自方式を多く開発した。

「せっかく素晴らしい技術ができたので、社会実装のための器を作ろうという目的で2018年2月に立ち上げたのが当社シンスペクティブです」(新井氏)

 技術実証機「StriX(ストリクス)-α」は2020年、アリアンスペース(Arianespace)のヴェガロケットで打ち上げられる予定だ。「2022年までに6機、2022年代に25機のSAR衛星で、地球観測網を組み上げます。6機あればアジア圏の99ある100万都市を、25機あれば世界中で292ある100万都市を、1日1回観測できるのです」(新井氏)

StriXは解像度1~3m、70cm立方、アンテナを広げると幅5m、重さ100kg以下、コスト5億円以下を狙う。2021年に商用1号機を打ち上げ予定で、その後は量産体制に入る。

どんな課題が解決できるのか

 では、SAR衛星によって、具体的にどんなビジネスや課題解決が可能になるのか。定点観測が可能な点を生かし、鉱山開発の管理、スーパーの駐車場に泊まっている車の台数から売上予測などのマーケティング、石油タンクの状況から石油の備蓄量を推定する投資判断などに使えるそうだ。新井氏が実際に契約が取れている具体例として紹介してくれたのは、インフラ開発だ。

「1日1回の観測で街の変化が見えてくる。地形や人口の流れなどのデータから、どこに道を作ればいいか、橋をかければいいか、つまりインフラをどう敷設すればいいかが分かります。従来、専門家の勘や限定的な情報に基づいて決められていた新興国のインフラ設計を、データに基づいて行うことができます。その設計に基づいてゼネコンやデベロッパーが開発できるわけです」