新井氏が本当に目指すのは、その先にある。防災や減災への活用だ。「災害が起こった時には、72時間以内に救命活動をすれば生存率が飛躍的に上がります。台風の最中でも地表が見えるSAR衛星なら、どの村が孤立し、どの道が使えないか、即座に情報提供できるはず」。
だが、災害に活用するには1日に1回の観測頻度では足りない。「防災のソリューションに関してはJAXAのJ-SPARCとの研究テーマになっています」(新井氏)。
JAXAは現在、「だいち2号」という大型のSAR衛星を有し、防災目的で活用している。ただし12時間に1回しか撮影できない。災害発生時は他国の衛星と相互に観測する国同士の協定があるが、商業衛星とどうやって協力していくかは今後のテーマだ。
「商業衛星データが使えると分かれば、国が利用者になる可能性もあると思う」(JAXA藤平耕一氏)。
その将来を見据え、まずは「ビジネスで実績を積み重ね、我々の衛星が使えることを示すことが必要」と新井氏は意気込む。
膨大な観測データをフル活用し、本当にサステナブルな社会の実現へ。その理想のもとに集まった従業員は、設立1年半で約45名まで増えた。衛星を作るメンバーが十数名。ソフト開発やデータ解析メンバーが十数名。大手衛星メーカーからの転職組もいるプロ集団だ。
「学生の時にやりたかった宇宙を今やっているわけですね」と新井氏に言うと、「宇宙がやりたいという若い時の思考から、社会に必要だからやらなければならないという思考に変わった」ときっぱり。世界の現場で格闘した実体験から湧き上がる強い意思。こういう人が宇宙を道具の1つとして使いこなしたとき、世界はどう変わるのか。その未来が見てみたい。