「光学衛星データは人間の目に近いので何を見ているか分かりやすいが、レーダーは形を白黒で見ている感じで、何が写っているか分かりにくい。例えていうなら、レントゲン写真を渡されてがんの患部を見つけなさいと言われるようなもの。データ分析には医者が必要です。その分析についても弊社の専門家が行います」

 具体的には、機械学習を活用し、膨大な衛星データから顧客の目的に合わせて必要な情報を抽出する。さらに必要に応じて地上データや光学衛星のデータなどビッグデータの解析も行って、顧客の課題を解決するソリューションを提供するところまで行うという。

宇宙の夢を叶えたのではなく、必要だから宇宙を使う

 新井氏は大学時代に機械工学を専攻。宇宙開発の仕事に就きたいと思っていたが「NASAの宇宙開発も滞っていた時期で、政府予算での宇宙開発に限界を感じました」。技術の社会実装に興味があったことから、コンサルティングファームに就職。その後、東京大学の博士課程に進学し、技術経営戦略学を学ぶ。

「サウジアラビア政府に派遣され、砂漠のどこに太陽光パネルによる発電プラントを作れば国の発展につながるか、どう内製化するか、研究者として一緒に働きました」。アフリカやアジアなど多数の現場で汗を流し痛感したのが「政府や企業の意思決定が、勘や限られた情報に基づいているのでよく間違う」ことだ。フラストレーションがたまった。

「例えば、これまでに全世界で国際機関の資金を元に多くの太陽光発電が導入されたが、それらの4分の1以上が使われていない。なぜかと言えば、バッテリーが上がったり故障が起こった場合に、現地の人が直せないから。作った後のメンテナンスや費用まで考えて導入しないといけないのに箱モノを作って終わり。投資効率が悪い」

 本質的に何が問題なのか。考えた末の結論が「きちんとしたデータに基づいた意思決定や実行ができないと、本当にサステナブル(持続可能)な開発が達成できない」ということ。SAR衛星なら広域・高頻度できちんとしたデータを取れるはずだ。

 とはいえ、利権が絡みがちな現場で、分かりにくいSARデータを使うことに対して、顧客の抵抗や不安はないのだろうか。「各国政府に直接話を持っていくと、政治的なしがらみや実績を重視されて難しいこともあります。でもビジネスでは顧客にとってベネフィットがあるものであれば、入っていける」と自信を見せる。

「実際に変化が起きるのは、生活をよくしたいとか儲かるという単純なモチベーションです。具体的にはデータで効率化すれば利益が上がる。コストを下げられる。ビジネスが成立する領域があると見せることです」