工夫が仕事の喜びへ

 私は、どんな世界に生きることになっても、「工夫」を楽しむ人間でありたい、と願っている。工夫は、一見、単純に見える作業をも小宇宙に変える、不思議な力を持つ。

 幼児は、同じおもちゃを、飽かず繰り返し遊ぶ集中力を見せる。大人から眺めると「同じ」に見える。しかし子どもは、ああしてみたらどうなるだろう、こうしてみたらどうなるだろう、と、工夫に工夫を重ねている。決して同じではない。少し趣向を変えることで違った見え方になることに驚き、ますますのめり込む。まさに「しゃぶりつくす」かのように、工夫を重ねてその事物を知り尽くそうとする。

 工夫することの喜び。それを私たちは、丸暗記するだけの学校教育で見失ってしまう。しかし、単純に見えるものにも、思わぬ深淵がある。その小宇宙を、工夫で解き明かす作業は、なかなか興味深いものだ。そうした視点で仕事を捉え直すと、仕事って、結構楽しいものだと思う。

 強制したりして、仕事が受動的なものになるから、面白くなくなる。強制するのではなく、工夫を促し、のめり込むことができる環境を、会社が提供するようになれば、働くという行為は結構楽しいものになるのではないだろうか。

 ロバート・オウエンは、自らの経営する工場で、職員が工夫を重ねて楽しむように仕向ける仕掛けをたくさん用意した。糸をつむげと強制するのではなく、より高品質な糸をつむぎたくなるように、その心理をくすぐったのだ。

 その結果、産業革命の最中にあるイギリスで、労働時間や労働環境を大幅に改善した上で、世界一高品質の糸を高効率で生産することに成功した。なぜか。職員が工夫に工夫を重ねたからだ。

 仕事の「量」ではなく、「工夫」に視点をシフトし、工夫を楽しむ職場を形成するにはどうしたらよいか、考え方を変えてみてはどうだろう。工夫を重ねれば、質が向上するだけでなく、量さえも向上する。「工夫」を楽しむマインドを、もう一度取り戻してみてはどうだろうか。