米麹と甘酒。言うことを聞かない微生物をも、思惑通りに動かす方法とは。

(篠原 信:農業研究者)

「言うことをなかなか聞いてくれないという意味では、部下も、子どもも、赤ん坊も、はたまた微生物も、似たようなものだ」というと、即座に嫁さんから「人間と微生物を一緒にしないで!」とツッコミ。しかし、私は結構、本気でそう思う。命じたとおりになってくれないという意味では、似たようなものだ。

 ただ、もし言うことを聞いてくれない順に並べるとするなら、

微生物 > 赤ん坊 > 子ども > 部下

の順番になるだろう。部下は大人だし、給料をもらう利害関係があるので、まだしも言うことを聞いてくれる存在だ。

 ところが微生物ときたら、言うことをまったく聞いてくれない。こう動いてほしいと願っても、思惑通りに動いてくれない。そんな微生物を相手に研究している私は、微生物と比べれば、子どもや部下は、まだ言うことを聞いてくれる方だとポジティブに考えている。

馬に「水を飲みたい!」と思わせるには

「馬を水場に連れてくることはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがある。部下の指導の難しさを表現するのに、このことわざがよく引用されている。なるほどその通り。だが、こうも思う。水を飲ませることはできないけれど、「水を飲みたい」ように誘導することは可能だ、と。

 方法は簡単だ。水場に連れて行かなければいい。そろそろのどが渇くだろう、と思っても、連れて行かない。馬が「のどが渇いた! 連れて行け!」とはっきり主張するまでは。それからなら、馬は水場に着いた途端、ガブガブ水を飲むだろう。

 赤ん坊だった私は、ミルクをあまり飲まないのでずいぶん母親を困らせたという。育児指導に従って3時間ごとに飲ませようとしても、半眠り。飲んでもすぐに眠ってしまう。しかしそれではおなかがすぐすいて、起きてしまう。それでまたミルクを与えるけれど、少し飲んですぐ寝てしまう、の繰り返し。母親は眠るヒマがなく、疲労困憊したという。

 これに対して、3番目に生まれた弟。ミルクを大量に一気飲み。1本では足りず、おかわり要求。おなか一杯になるとグースカ寝て、私と打って変わって、扱いやすかったようだ。