学会発表を巡る変化が、研究環境の行く末を映し出している。

(篠原 信:農業研究者)

 私は3~4つの学会に参加している。今年の春は2つの学会に参加した。昨年も気づいていたが、今年はどちらにも共通して気になることがあった。

「学生の数が少ない」

 生物系では最大級の学会、日本農芸化学会の様子を見てみよう。たまに一般講演の数が2000を割ることがあっても、おしなべて2000題以上をキープする、マンモス学会だ。ところが2018年度大会では、1996年以来初めて1900を割り込み、今年度は、講演要旨集から独自に集計してみると、1676題と激減した。

【参考】過去の大会一覧(日本農芸化学会)
http://www.jsbba.or.jp/event/annual/event_annual_list.html

好景気の「先」が不安な大学生

 先生方に伺うと、大学院(修士課程)に進む学生の数が減っているという。学生が研究室に配属されるのは、大学にもよるが、4回生になってから。たった1年の卒業研究では、学会発表するだけのデータを出すのは難しいし、プレゼンの技術も追いつかない。このため、学会発表の中心はどうしても、大学院にまで進んだ修士課程、博士課程の学生となる。

 博士課程の学生が減ったのは、ずいぶん前からだ。私が博士号をもらう頃には、まだ指導教授の強い後押しがあればどこかの大学で職を得ることができたが、後輩たちの多くは定職を得られない「ポスドク」(博士号を持っているが、大学教員などの定職がない状態)となって、全国、あるいは世界を渡り歩き、なんとか食いつなぐ(場合によってはまったく食いつなげない)状態となっていた。その様子を見ていたさらにその下の世代、つまり現在40歳未満の人たちは、よほどのことがない限り、博士課程に進もうとはしなかった。博士号をもらったところで、就職先がないことを知っていたからだ。

 ただ、博士課程が閑散とする中でも修士課程は比較的最近まで人気があった。就職氷河期が20年も続く中、理系の就職は比較的堅調で、大学院で2年余分に研究に取り組み、センスと技能を磨いた修士の人間は企業からも評価が高く、就職先も恵まれたところに比較的進めた。