自分には「信念」がないな。さまざまな場面でそう思う。誰かに何かを強く主張されたとき、たいてい「そうだよね」と同意した後、自分の信念のなさに思い至って、軽く落ち込む。
これから先、年齢を重ねたある日、「オレだよ、オレ」なんていう電話がかかってきたら・・・。そう考えると、やはり信念の1つくらいは持っていた方がいいよなと思う。そうしておけばきっと「いいや。オレのほうが、どちらかというとオレだと思う」くらいのことを言ってやることができるはずだ。
ということで今回は、2冊の本を取りあげながら「信念」について考えてみたい。はたしてオレは、信念を獲得できるだろうか。
柚月裕子 『検事の信義』
現在、もっとも活躍が期待されているエンタメ作家の1人、柚月裕子の最新刊となる本書は、読書好きの間で、読めば間違いなくハマると噂される「佐方貞人」シリーズの4作目である。主人公の佐方貞人は広島県出身。北海道の大学を卒業し、法曹界に身を置く。
『最後の証人』『検事の本懐』『検事の死命』の順に出版されたこのシリーズの過去3作は、時系列が少し複雑だ。1作目の『最後の証人』において「弁護士」である佐方は、表向き痴情のもつれとしか思われない難解な事件の、その裏側にある真相を鮮やかに暴いてみせる。
検察を向こうに回し、弁護士として見事な法廷戦術をみせる佐方。当該事件を扱った作中において、彼がかつて「検事」だった過去が語られている。それら断片的な情報から推測するに、佐方はどうやら30歳前後という若さで「ヤメ検」弁護士となったようだ。
その身に、一体何が起こったのだろう? 疑問の答えは、2作目以降で描かれている。