志村五郎さんが亡くなられた。

 といっても多くの読者にはピンと来るまい。一部には「谷山・志村予想」とか「フェルマーの大定理」といったキーワードと結びつけて、同氏の訃報を認識する人もあるだろう。

 また筆者などよりはるかに、彼の業績やその先の展開に通じた専門家もたくさんおられるはずだ。そのような内容に踏み込むつもりはない。

 ここでは、志村さんという一数学者の等身大の声として、私が認識した範囲に基づいて、とりわけ中学高校から大学初年級までの読者を念頭に、いくつか記してみたいと思う。

 また子供を東京大学などに進学させたいと思われる親御さんには、よく読んでもらいたいと思いながら記した。

 そのようなターゲットであるから、普段の文体とは異なる、本稿のような常体を取っている。これには、志村さん自身の文体が、そのような飾りのないものであることが一因している。

 なお念のため、筆者は生前の志村五郎氏に一面識もない。あくまで、その遺された仕事、しかもその中で、数学専門家向けではない、初学者や周辺専門家向けの著作に、大きく心を動かされた経験のある一読者として、記すものである。

 だが、それゆえに、JBpressのような広く一般向けのコラムとしても、多くの人、例えばファイナンスやマネジメントの数理やシステムに関わる読者にも、大いにお勧めできる内容を記せるように思うのである。

志村五郎「最期の4冊」未来への遺言

 志村五郎さん自身に触れる前に、読書案内を記しておこう。ちくま学芸文庫として公刊されている「数学をいかに使うか」(2010) 「数学の好きな人のために」(2012) 「数学で何が重要か」(2013) そして「数学をいかに教えるか」(2014) の4冊である。

 あらかじめお断りしておくが、筆者もこれらのすべてを完全に読了しているわけではない。

 数学の本を読むとは、紙と鉛筆を手に取り、一つひとつの命題を再現しつつ追い、可能であれば別解を導いたりしながら悪戦苦闘することを指すと思う。

 その意味では、最晩年のこの4冊だけを取り出しても、私は志村作品のよき読者ではないだろう。

 しかし、これらの書籍は十分平易に記されている。