「働き方改革」は経営者にとっては「働かせ改革」と述べましたが、これを社員から見れば「働き甲斐改革」となります。そのことに気づいて、「働き甲斐のある職場をどう作るかが本筋だ!」と声を上げる経営幹部や識者も増えてきているようです。そのこと自体は喜ばしいことですが、実はここに罠があります。

 もしあなたが経営幹部であれば、社員に「どういう働き方がしたいですか」ではなく、「何があなたの働き甲斐に繋がりますか」と尋ねてみてください。働き甲斐は人それぞれ、多様な価値観があるものです。とても1つや2つに集約できるものではありません。仮に回答があったとしても、おそらくそれらは「やった仕事が評価されるシステム」「達成感が感じられる体制」「モチベ―ションが上がる仕事」といった、差しさわりのない一般論にとどまるはずです。

 あるいは、社内全体が「集団皿回し状態」で隣の人の様子を見る間もないほど忙しく、全く余裕のない状態になっているのなら、働き甲斐を考える余裕すらなくなっています。それが今日の職場の実態です。

 3年前は「女性活用」、2年前は「ダイバーシティ」と、もっともらしいスローガンが掲げられてきましたが、抜本的な取り組みがなされることはまずありませんでした。「働き方改革」も適当に受け流されて終わってしまうのでしょうか。

 そうならないために、「働き甲斐改革」を実効性のあるものにするにはどうすればいいか。簡単です。「情報を知ること」です。この課題は、2つのステップでアプローチすることで解決します。

マズローの「欲求の5段階説」は前時代の遺物

 働き甲斐を感じるためには、その人の欲求を満たすことが前提になります。「人の欲求」と聞くと、まずは「マズローの欲求5段階説」が思い浮かびます。

・生理的欲求
・安全の欲求
・社会的欲求(所属や愛の欲求)
・承認の欲求
・自己実現の欲求

 マズローは、生理的欲求から自己実現の欲求に向かって、5段階をひとつずつクリアすることで次の段階に向かうと説明しています。しかし、現代に生きる私たちの中には、「単身赴任をしているので『家族と仲良く暮らす』という所属や愛の欲求こそが自己実現」という人もいます。今は多様性の時代、その欲求も人それぞれで、必ずしもこの5段階に沿っているとは限りません。

 私がコンサルティングや研修、講演の場で「今起きている全ての問題が解決したら、何をしたいですか?」と聞いてみると、「う~ん」としばらく悩んだ後、出てくる答えは「ぐっすり寝たい」「飲みに行きたい」「旅行に行きたい」など、承認の欲求未満のことが9割以上という悲しい現実があります。