それを知ったアメリカの映像作家である著者は、実際に現地へと足を運び、関係者の話を聞いてまわる過程で、あるひらめきによって仮説が像を結び、一つの結論を導き出した。その仮説を世に問う形で本書は出版された。
結論からいうと、ラストの仮説はちょっとにわかには信じがたい。彼ら9名が亡くなった原因は何なのかというのが、誰もが知りたい一番の疑問であると思う。雪崩、滑落、噴火、殺人、軍のミサイル実験、UFOなどなど。現実的なものから自然現象、意図的な殺戮、意図せぬ事故、そして超常現象。現在に至るまで、様々な可能性が指摘されてきた。
この事件を知った人間はもれなく、自分がこうではないかと思う仮説に肩入れし、票を投じることだろう。そして、票が投じられた箱は開けられることなく、今まで放置されてきた。著者は初めて、その箱に手をかけ開けたのだった。結果、先に挙げた「票を投じられた仮説」はどれも信憑性に欠けるとして、著者は次々と退けていく。空になった箱の中へ、彼は自身で新たな一票を投じる。それは今まで誰も投じたことのない、新たなる一票であった。
謎が謎を呼ぶミステリスパイラル
1959年2月。ソ連のウラル山脈に登山を目的として入った9人の学生。予定日を過ぎても下山しなかったことに端を発する実際の事件・・・。
ディアトロフ峠に設置された彼らのテントは、つい最前まで人がいたかのような気配が感じられる状態で「遺棄」されていたという。テントの側面はナイフで切りさかれていたことから、テントにいた彼らは当初、外部から訪れた何かから逃がれるために3方向に散らばり、結果として怪死してしまったのだと結論づけられた。
真冬に靴も履かず、防寒具も着ずに、テントから何百メートルも離れた場所で横たわる、物言わぬ彼ら。遺体となった彼らのうちの幾人かには、外部から力が加えられたと推測される無数の傷があった。外部からの力というと、私たちはすぐに「誰か」を連想してしまいがちである。それは捜索隊も例外ではなかった。しかし、これはのちにミスリードであったことが判明する。そして事件は謎が謎を呼ぶ、ミステリスパイラルとでも言うべき状況へと陥ってしまった。