久平可南子は、プロ野球のトライアウト(入団テスト)で、偶然に地元のヒーローだった深澤翔介を見かけた(藤岡陽子『トライアウト』)

 この記事が公開される予定の11月3日(土)は、プロ野球日本シリーズの第6戦目が開催されているはず。圧倒的な強さでセ・リーグを制した広島カープと、クライマックスシリーズを勝ち上がったソフトバンク・ホークスとの注目の戦いです。

 過去2年間セ・リーグを制しながら逃し続けている日本一への挑戦に、今季限りでの現役引退を表明したチームの精神的支柱の新井貴浩選手の花道。開幕前にこの原稿を書いている私の予想は、シリーズへ望むモチベーションの強さや、チームの勢いを踏まえ、ズバリ4勝2敗で広島カープの優勝。つまり今夜、マツダスタジアムで緒方監督が宙を舞うことでしょう(笑)。

 この日本シリーズが終わると、プロ野球界も本格的なストーブリーグに突入します。ドラフト指名選手との入団交渉、所属選手との年俸交渉、新外国人選手探し、フリーエージェント選手との残留・入団交渉・・・。今後、来シーズンを見据えたチームをつくるための交渉や契約が活発化していきます。

藤岡陽子 『トライアウト』

 応援しているチームがどのような顔ぶれに変わっていくのか、プロ野球ファンとして目が離せないこのストーブリーグ。その一方で、プロ野球界を離れる選手たちを見送る寂しい季節でもあります。そんな戦力外通告を受けた選手が登場する小説のひとつが『トライアウト』(藤岡陽子著、光文社文庫)。

 新聞社の運動部に異動したばかりの久平可南子は、取材先のプロ野球のトライアウト(入団テスト)で、偶然に地元のヒーローだった深澤翔介を見かけます。とあるスキャンダルに巻き込まれたため未婚の母の道を選んだ可南子と、トライアウトを経てもオファーがない深澤。お互いに事情を抱えながらも、ふたりは徐々に距離を縮めていきますが、それぞれに決断のときが迫っていました。