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 9名の学生からなる登山チームが、予定を過ぎても下山せず、捜索チームが組まれる。生命の灯火はすでにつき、彼らは遺体として発見されてしまう。それらの遺体はすべてが不自然だった。世に遭難事故は数多くあれど、遭難者たちの遺体がこれほど奇妙な状況で発見された事例は、おそらく他に例を見ないのではないか。

 発見時の特徴をざっと挙げる。
(1)9名は3つのチームに分かれ、野営地のテントから離れた場所で見つかった。
(2)氷点下であったにもかかわらず、発見された遺体はろくに衣類を身に着けていなかった。
(3)雪山であるのに、全員が靴を履いていなかった。
(4)3名が肋骨や頭部を骨折しており、1名は舌を失っていた。
(5)着衣から高濃度の放射線が検出された。

 断っておくが、これはミステリ小説ではない。実際に冷戦下のソ連(現ロシア)で起きた事件である。「死の山」という凡庸なタイトルでは、この事件の異常性は際立たないと私は思う。

『死に山』。

『死に山』という、目にした者が一瞬ひっかかりを覚える、このタイトルこそがふさわしい。訳者のセンスが光る、邦訳の妙と言えよう。

9名が亡くなった原因は何なのか?

 この事件に目撃者はいない。わずかに1名、途中下山した生き残りがいるだけである。しかし生き残りの彼は、亡くなった9名が事件直前まで、日常を逸脱することなく過ごしたということの証言者でしかない。半世紀が経ったいまも解明されない謎が多く、彼らの不自然な最期に、陰謀説をはじめとした様々な憶測が飛び交った。