これら不可解な遺体の状況を、およそ60年の時を経ながらも著者は、被害者9名がつけていた登山日記と、先に挙げた途中下山した唯一の生き残りである「ユーリ・ユーディン」への聞き取り調査を手がかかりに、解明への階段をのぼっていく。アメリカからわざわざ実際に事件現場へと赴き、自説を積み上げていくのだ。事件を知り、いつしか謎に取りつかれた男の執念と、9名の若き被害者の突如として閉ざされた未来。事件の特殊性も相まって、読みながら自らの体温が奪われていくような奇妙な錯覚を覚える。

あなたはこの結末に納得できるか?

 本書は結論に至るまでの構成を、(1)当時の捜索隊の目線で難事件の疑問を立案するパート、(2)関係者へのインタビューによって鍵を手に入れるパート、(3)学生たちの足跡を追ってある仮説を立証していくパート、の3つに分けている。いわゆる群像劇のような構成によって350ページを超える長さの翻訳本ながら、読者をまったく飽きさせることがない。

 著者の自説として語られる結論。本書では最終的に彼らを死へと誘った、にわかには信じがたい「ある事象」が示されている。当時は突き止められなかった本事件の「原因」を、現在の科学の力と理論によって明らかにしていく著者。およそ60年にも及ぶ謎は、雪山が春を迎えるがごとくゆっくりと氷解していく・・ようにも思えるのだが、はたしてあなたは本書のこの結末に納得できるだろうか? 高い山には万年雪がつきもののように、長い年月を経た謎には解けない謎が残る。