この分析手法では、この塵粒子に「酸素イオンビーム」で、直径1μm~2μm、深さ1μm~2μmの穴をうがちます。穴を開けると内部の物質が飛び散りますが、その中の原子を数えます。一般的には「SIMS(2次イオン質量分析計)」と呼ばれる装置です。

 寺田教授らのチームは3粒の塵粒子(サイズ34μm~192μm)にこの分析を行ない、ウランと鉛の原子核の存在比(同位体比)を測定することに成功しました。

(ちなみに、この研究で使用された塵粒子はRA-QD02-0056、RA-QD02-0031、RB-QD04-0025という名前で、そのデータは、はやぶさ1号が採取した他の塵粒子とともに https://darts.isas.jaxa.jp/pub/curation/hayabusa/ から自由に見られます。)

 ウランの原子核は不安定です。時間が経つと「壊変(かいへん)」して別の原子核に変わり、最終的に鉛の安定な原子核になります。壊変は時計のように精確に進行する現象なので、ウランと鉛の原子核の存在比を測定すると、この試料が何億年前に作られたのか、時計を読むように分かります。

 そして都合のよいことに、壊変は原子の中心部に秘められた原子核の変化なので、途中でウラン原子や鉛原子が乱暴に扱われても影響されません。つまりイトカワの形が変わるほど衝撃を受けたり、数百℃に熱せられたり、化学変化したりしても、数十億年前にセットされた時計を読み取ることができるのです。

 この解析の結果、イトカワを構成する物質は (4.64±0.18)×10^9年前(誤差は標準偏差、以下同じ)、つまり約46億年前に作られたと推定されました。そして(1.51±0.85)×10^9年前、つまり約15億年前には、一度高温に熱せられたと思われます。おそらく天体の衝突事故があったのでしょう。これは先行する他の研究とも矛盾しない結果です。