深海を舞台に行われる国際レース(競技)「Shell Ocean Discovery XPRIZE」に参加する「Team KUROSHIO」共同代表の皆さん。左右の赤い機体がレースで使われる海中探査ロボット「AE2000a」と「AE2000f」(ともに東京大学生産技術研究所所有)。

 月へ、火星へ。フロンティアと言えば、思い浮かぶのが「宇宙」。しかし、実は月や火星以上に秘境と言っていい場所が足元に広がっているのを忘れていませんか? それは「深海」。

 地球は「水の惑星」であり、表面の3分の2を海が占める。海は多様な生物の宝庫であり、海底油田などの鉱物資源が眠っていることが近年明らかになっている。だが意外なことに、海底のほとんどについて粗い地図しかない。測量船で調査した範囲は海全体の約1割に過ぎず、残りの9割は人工衛星による海底地形調査。だがその分解能は500m~1km。月や火星の地図に比べても、非常に粗い地図しか人類は手にしていないことになる。

 その理由は深海の過酷さにある。海は平均して約4000mの深さがあるが、スキューバダイビングで潜ることができるのはせいぜい30m。一般的に水深200mより深い海は深海と呼ばれ、太陽光が届かない暗黒の世界。さらに電波も届かず圧力が高い「極限環境」である。

 技術的なハードルが高い深海探査。日本では有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査ロボットが活躍している。ケーブルにつながれない海中探査ロボットAUV(Autonomous Underwater Vehicle)は人工知能を搭載し、海底をなめるように航行できる。非常に高い精度で海底の地形図を取得でき、世界のAUV市場は拡大を続けている。

 その一方、課題も多い。例えばある研究者が海底のデータがほしい場合、大掛かりな調査航海を実施する。研究者は海洋技術者と一緒に母船に乗り込み、調査海域まで時に船酔いに悩まされながら航行。目的の場所に到着するとAUVを母船から展開し、海底調査開始。母船から人間によるAUVの管制が行われる。調査後、目的のデータを得られるのは数週間後だ。

 現状ではAUVの展開・回収には母船やダイバーの支援が必要なため運用コストが高く、さらにデータを得るまで時間もかかる。「コスト」感、「スピード」感に欠けると言えるのだ。