小惑星イトカワと太陽系の46億年
この結果と他の研究グループの結果と合わせると、イトカワと太陽系の経てきた46億年の歴史が浮かび上がってきます。
はやぶさ1号によってイトカワから地球に運ばれた物質は、元は別の天体の内部にあったと推定されます。冷却時間から考えて、この天体は直径20kmはあったようです。約46億年前の太陽系形成時、どの天体もできたばかりで高温だった頃、イトカワの母天体と呼ぶべきこの天体は火星と木星の間の小惑星帯に誕生したのでしょう。
約15億年前(他の研究結果も考慮すると約14億年前)、イトカワの母天体は別の天体と衝突し、衝撃で熱せられ、ばらばらに壊れたと考えられます。その破片がいくつか合体して、小惑星イトカワを作りました。イトカワのピーナッツのような形状は、破片の合体によって説明できます。
現在、イトカワは小惑星帯から外れ、地球や火星の近くを通る軌道を巡っています。このような軌道を巡る天体は、100万年~1000万年というような時間が経つと、地球や火星に衝突すると予想されます。あるいは逆に、天然のスウィングバイ航法によって遠くに弾き飛ばされる可能性もあります。イトカワやリュウグウのような、地球に接近する軌道を巡る小天体の寿命は短いのです。
月などのクレーターを見ると、イトカワやリュウグウのような小天体は、過去に何度も衝突事故を起こしてきたことが分かります。約6500万年前、地球に起きた特に大きな衝突事故は、恐竜を含む多くの生物種を絶滅させました。
イトカワの歴史からは、太陽系の熱い創成期、盛んに小天体どうしが衝突した激変期、大絶滅を引き起こしてきた隕石衝突などの歴史的事件が浮かび上がってきます。
想定を超える苦労をしてはやぶさ1号が持ち帰ったのは、吹けば飛ぶような塵粒子だったわけですが、それを丹念に解析し、データを搾り取ると、太陽系の歴史が見えてくるのです。
* 寺田健太郎教授から、分析手法と数値表記の誤りを教えていただき、訂正いたしました。御指摘ありがとうございます。