イトカワの塵粒子の行方
イトカワの1500粒以上の塵粒子は、番号をふられてカタログ化され、一部はAO(Announcement of Opportunity)方式で世界の研究者に配布されました。
AO方式とは、実験試料や実験装置などのリソースの管理者が研究計画(プロポーザル)を公募し、試料や装置を使いたい研究者は自分の研究計画をもってこれに応募し、その中から使用者が選ばれるというリソース割り当て方式です。大型望遠鏡や天文衛星、粒子加速器の使用時間などはこの方式で選ばれることが多いです。
余談ですが、選ばれたプロポーザルは「当たった」とか「通った」と言われ、選ばれなかったら「外れた」「落ちた」と言われます。外れた研究計画は実行できないので、そのまま葬られるか、あるいは提案者は計画を練り直して次回挑戦するなど別の戦略を考えることになります。学位論文のかかったプロポーザルが落ちると人生設計が変わることもあり得ます。
こうして世界に分配されたイトカワの塵粒子に、待ち構えていた研究者がありとあらゆる分析機器と分析手法を用いて襲いかかりました。透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)、ラマン分光と近赤外ラマン分光、質量分析、シンクロトロンX線回折、中性子励起ガンマ線分光・・・。宇宙から来たちっぽけな塵粒子から、構造、化学組成、鉱物組成、同位体比などなどのデータが搾り取られました。
今回の分析
2018年8月7日、大阪大学の寺田健太郎教授、東京大学大気海洋研究所の佐野有司教授、高畑直人助教らの研究チームは、イトカワ試料の分析結果を『サイエンティフィック・レポーツ』誌に発表しました。(https://www.nature.com/articles/s41598-018-30192-4)
(寺田教授は、2017年には月探査機「かぐや」のデータに基づいて、地球の酸素原子が月に届いているという研究結果を発表しています。筆者と同じくX線天文学
グループの出身で、酒を呑むと面白い話を始める人物です。)