【写真2】有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA)の成膜装置(筆者撮影)

 i3-OPERAは、福岡県産業・科学技術振興財団が、経済産業省の補助金を受け、九州大学、福岡県、福岡市の協力のもと、有機ELの実用化を行う目的で、平成 25年4月19日に開所した施設だ。

 まず目に入ったのは、多くの反応室を持つ成膜装置である。成膜室内に移動できるマスクが設けられており、3色蒸着方式が可能である。i3-OPERAは、オペレーターも雇用しており、Kyuluxが依頼するレシピに沿って1枚いくらで成膜してくれる。

 Kyuluxのオフィスは、九大から約1kmの福岡市産学連携交流センター内にある。

 筆者は、Kyuluxにて、同社の共同創業者の1人、CFOの水口啓氏にインタビューした。

【写真3】Kyulux CFOの水口啓氏(Kyuluxにて筆者撮影)

 水口氏は、ベンチャーキャピタル「九州ベンチャーパートナーズ」の社長として活躍していたが、安達教授の新技術を紹介され、2015年3月のKyuluxの創業に参画した。

「資金を出す投資家から資金を獲得する起業家へ、つまりピッチャーからキャッチャーへ転身したわけですが、違和感はありませんでした。

 ただ、投資家からの出資を得るまでの道のりは容易ではありませんでした。日米両国で売り込みをしましたが、有機ELの寿命がなく、事業計画はただの紙芝居であり、可能性の話しかできませんでした。投資家との面談は400回程度実施しましたが、全部ダメでした。

 ですが、サムスンとLGとの交渉でポジィティブな反応があった。『興味深い。協力できるならしたい』と。

 2015年11月にアップルがiPhoneに有機ELを採用すると発表したことで、風向きが大きく変わりました。途端に日本のベンチャーキャピタルから電話が殺到しはじめたのです。サムスン、LGに加え、JOLEDなどからも出資の打診が相次いできました」

サムスンとLGには出資額を抑えてもらった

 Kyuluxは、最初の出資額として15億円を計画していた。

「サムスンやLGは『全額、うちが出してもいい』とまで言ってきました。

 しかし、FIRSTプログラム等で国から約50億円を得ていること、TADFが有機EL材料の起爆剤になる可能性がたかいことなどから、複数社からの出資にこだわりました」

 そこでサムスンとLGの出資額を抑えてもらい、JOLEDや多くのベンチャーキャピタルからの出資を得て、ついに15億円の調達に成功したのだった。

「現在は、従来の蛍光材料にTADFを添加する『ハイパーフルオレッセンス』の開発に取り組んでいます。狙った色が高い輝度で得られる特長を持ち、出資者からも『画像をくっきりさせる』と高い評価を得ています。この状況の基に、まもなく25億円~30億円の資金調達を実施するつもりです」

 TADFをそのまま発光材料として使うよりも、従来の蛍光材料に添加剤として使うと、蛍光剤の性能を飛躍的に高めるのだという。

 有機ELパネルの製造法で強みを持ちながらも、韓国メーカーに後れを取っているJOLEDは、背水の陣で、渾身の2つの事業戦略を取った。

 安達千波矢教授は「有機物で世の中を変えたい」という高いビジョンを掲げ、次世代の発光材料を開発し、Kyuluxは懸命に実用化を目指している。

 JOLED、Kyuluxともに技術的可能性は高い。今後は企業のマネジメント力が問われる、つまり「技術経営」必須の段階になるはずだ。日本有機ELのリベンジに期待しながら、両社の活躍を見守りたい。