それで終わりではない。さらにシャープの研究所で研究し、製造装置メーカーと共同で装置開発することが必要になる。

 この様に、「技術移転」には、「技術ライセンス」だけでなく、多くの複雑な工程が必要になるのだ。

 JOLEDが、パナソニックプロダクションエンジニアリング、SCREENファインテックソリューションズとともに提案する大型「技術外販」は、製造技術や製造装置までセットにした、「技術ライセンス」を大幅に超えた内容で、「破壊的技術ワンストップサービス」と言える。

 このサービスは、液晶パネル製造でよく見られるような、すでに開発された装置を顧客のニーズに合わせてマイナーチェンジするような事例とは異なる。顧客と3社が「すり合わせ」て、顧客のニーズに全面的に合わせたパネル製造が可能になる「ワンストップサービス」として売り込むわけだ。

 このビジネスが広がれば、LGやサムスンが採用している蒸着方式から、JOLEDの印刷方式に、有機ELパネルの主流が一気に変わる、つまりゲームチェンジャーとなる可能性がある。それだけの爆発力を秘めた事業戦略であることは確かだ。

中小型では1000億円を投じて量産へ

 JOLEDのもう1つの戦略である450億円の調達は、中小型有機ELディスプレイの量産に向けた戦略である。

 JOLEDは、2018年7月に、石川県に能美事業所を開設している。中小型液晶大手のジャパンディスプレイの旧能美工場を、産業革新機構を通じて取得したもので、世界初の「3色印刷方式」の有機ELディスプレイの量産工場として、2020年の稼働を目指している。

 5.5世代と呼ばれるパネルを、1.3x1.5mで、月産2万枚生産する計画だ。車載向けやハイエンドモニター向けの10~32インチの中型有機ELディスプレイをターゲットとしている。

 全体の調達目標額は1000億円。うち470億円の調達が完了したことが発表されたわけだ。

 大型ディスプレイについては技術を外販し、技術料収入を得る。その資金と外部から調達した資金を能美工場につぎ込み、中小型ディスプレイの生産で突っ走る。これが、今回発表された2つの事業戦略の意味だろう。技術流出のリスクも承知の上での挑戦的な戦略だ。

 JOLEDは、リベンジを狙って捨て身の2つの事業戦略を取った。背水の陣の構えに入ったと言えるだろう。その成果を見守りたい。

国の研究支援プログラムに選ばれた発光材料研究

 一方、新しい有機EL材料として期待されているのが、Kyuluxが事業化に取り組んでいるTADFである。九州大学の安達千波矢教授が発明した新発光材料だ。

 安達千波矢教授へのインタビューのため、九州大学伊都キャンパスにある最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)を、2018年2月16日に訪ねた。壮大なキャンパスの一角にOPERAはある。