日本発の有機EL事業の成否は、この2社にかかっていると言っても過言ではない。そこで今回は、日の丸連合のJOLED、九大発ベンチャーKyuluxの奮闘を紹介する。
技術流出のリスクを冒しながらの「技術外販」戦略
2018年8月23日、JOLEDは今後の事業展開に大きく関わる2つの事業戦略を発表した。
1つは、大型テレビ向けの印刷方式による有機ELディスプレイの「技術外販」を推進する業務提携。もう1つが、有機EL量産に向けた第三者割当増資による総額470億円の調達だ。この2つの戦略は、現在の「蒸着方式」からのゲームチェンジを目指した、モノとサービスの「両面戦略」だ。つまり、中小型「量産」のモノと、大型「技術外販」のサービスだ。同社が生き残りのために練り上げた、渾身の戦略と言える。
JOLEDは、「3色印刷方式」の有機ELパネルを、2017年12月に世界で初めて出荷している。
「3色印刷方式」とは、赤・緑・青を、インクジェットプリンターの様に、印刷で塗分ける方式だ。この方式は、LGが採用している「白色蒸着方式」やサムスンの「3色蒸着方式」と違って、蒸着に必須な真空状態を作る過程が省けるので、工程がシンプルになる。そのためコストが抑えられ、有機EL生産の最終ゴールになりえるのである。
JOLEDの起死回生の事業戦略と、将来戦略を【図1】に示す。
JOLEDは、生産設備の開発設計を行う「パナソニックプロダクションエンジニアリング」、ディスプレイ製造装置の生産と保守等のサービスを行う「SCREENファインテックソリューションズ」の3社の業務提携を発表した。
これは単なる業務提携でなく、「3色印刷方式」による大型有機ELディスプレイの「技術外販」を意味する。
JOLEDが「技術外販」を発表した翌日の日本経済新聞は、海外への技術流出を懸念する経済産業省幹部のコメントとして、「1~2世代古い技術を提供して稼ぐモデルで最先端技術は日本国内に残る」と報じている。
筆者は、経産省幹部は事実誤認をしていると思う。「3色印刷方式」は、研究開発途上の最先端技術であり、もっと正確に言えば「破壊的技術」だ。この技術を外販するということは、技術流出の可能性は否定できない。そのリスクの代わりに、JOLEDは、提携企業や海外企業等との共創により、大型有機ELパネルの生産技術を発展・普及させられるとともに、自社で大型を「量産」できるようになる。
この「技術外販」は、特許等の単なる「技術ライセンス」ではない。「技術ライセンス」とは、特許の使用を許可するだけだ。製造ノウハウ等を含んでいない。そのノウハウがなければ、「技術ライセンス」は「猫に小判」なのだ。
私は、シャープ・アメリカ研究所に勤務していた時代、シリコンバレー等で新しい技術の芽を探し「目利き」し、日本に技術移転する仕事をしていた。その時の経験をもとに技術ライセンスについて述べてみたい。
まず有望なベンチャーを訪問し、「秘密保持契約」を結んだ上で、技術を開示してもらう。可能性があれば「共同研究契約」を交わし、詳しい情報や試料を提供してもらう。さらに、自分たちの研究所で試料を用いて技術評価し、結果が良ければベンチャーと「技術ライセンス供与」の契約を結び、日本に「技術移転」するのである。