スイスにあるフィリップモリスの研究施設「CUBE」。(撮影:榊智朗)

 前回は、IQOSの開発によってフィリップモリスジャパン(PMJ)に押し寄せた社内変革とそれに伴う働き方見直しの経緯を紹介した。

 今回は、フィリップモリスがIQOSという革新的な製品を生みだした具体的な理由を、再び研究開発の現場の「働き方」の視点で見ていく。

 フィリップモリスはIQOSを開発するために巨額の投資をして最先端設備が整う研究開発施設「CUBE(キューブ)」(スイス・ヌーシャテル)を設立し、世界からさまざまな分野の優秀な科学者やエンジニアを集めた。

 だが、人を集めただけでは革新的なものを生み出せない。そもそもたばこ会社が人を集めることは容易ではなかったはずだ。

 キューブで働く科学者やエンジニアをはじめ、世界各国の社員が同じ方向に向かってミッションを遂行するために、もっとも重要なことは何か。フィリップモリスの事例を通じて、イノベーションを起こす働き方について考える。

働き方を決めるのは制度ではなくパッション

PMJの井上哲副社長(筆者撮影)

 フィリップモリスが社員の働き方で、もっとも重視していることとは何か。改めてPMJの副社長、井上哲氏に尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

 「人が働くうえでもっとも大切なのは、パッションだと私は考えています」

 「パッションというと感情的なものをイメージするかもしれませんが、本来はロジカルなもの」

 「会社が将来に向けて掲げたビジョンを正確に理解し、そこにしっかりとコミットメントを持てば、自然にパッションが生まれてくるはずです」

 パッションとは本来、人の心の中に静かに、そして強く宿るものだと井上副社長はいう。つまり働く人の心の状態が大切だと考えているようだ。

 働く人のモチベーションによって仕事の質が変わってしまうということは理解できる。ただモチベーションという点では、数ある業種・業界の中でも、たばこ会社ほど風当たりのきつい会社はないため、むしろパッションを持つことが難しいはずだ。