フィリップモリスの敷地前に広がるヌーシャテル湖(撮影:榊智朗、以下同)

 日本で働き方改革の論議が進められているが、政府の押しの強さに比べて企業側からは熱意が伝わってこない。その理由は、企業が働き方改革をするメリットが見えないからだ。

 それを知るには日本企業だけを見ていてはわからない。そこで今回は外資系企業の取り組みを紹介する。中でも世界最大級のたばこ会社、フィリップモリスの働き方を取り上げ、働き方と企業発展の関係について考えてみる。

 フィリップモリスが長年の研究開発の末に完成させた加熱式たばこ「IQOS」は、500万人のユーザーを獲得する大ヒット商品となった。

 これほどの支持を得たのは、同社が過去にとらわれることなく、未知の製品の開発に挑み、全力でビジネスモデルの変革に取り組んできたからだ。

 その変革を支えてきたのは会社としてのビジョンと、多国籍企業ならではの合理的な働き方だった。世界に変革を起こす製品を生み出したフィリップモリスの働き方を、3回にわたって紹介する。

勤務時間を気にしないスイスの働き方

 スイス・チューリッヒ空港から特急列車で2時間。ヌーシャテルは、中世ヨーロッパの面影を残す風光明媚なリゾート地だ。目の前に広がる湖の向こうに、アルプス山脈の峰々がそびえる。

 その湖のほとりに四角いガラス張りの建造物がある。世界最大級のたばこメーカー、フィリップモリスが世界に誇る研究センターだ。

 その形状から、「CUBE(キューブ)」と呼ばれる。ここはあの煙が出ない加熱式たばこ「IQOS」を生んだ、研究開発施設である。

 施設は4階建てで3つの棟に分かれ、その間を空中の廊下がつなぐ吹き抜けの構造になっている。ガラス張りの天井と壁からは自然光が降り注いでいる。

 1階には植物が植えられている一角があり、カフェテリアのような空間もある。また施設内のいたるところに公園のベンチのようなフリースペースが確保されている。