3月8日、朝。岡山県倉敷市を拠点に文具・オフィス用品を販売するクラブン(本社倉敷市)の岡山支社で、中小企業向け経営情報サイト「HANJO HANJO」(ハンジョー ハンジョー)が主催する「中小企業 社歌動画コンテスト」の大賞授賞式が行われると聞き、東京から約4時間かけて駆けつけた。
会場となる大会議室に入って驚いたのは、報道陣の多さだ。地元テレビ局のカメラが5、6台も入っているうえに、地元紙のほか朝日や読売など全国紙の記者の姿もある。
それもそのはず、一般投票で最も多くの票を集めて大賞を受賞するクラブンの社歌は、ラップ。事前にその動画はチェックしてきたが、そこには実際に職場で働いている社員たちがノリノリで歌い、踊る姿が映像に収められている。
その社歌動画は「中小企業 社歌動画コンテスト」のオフィシャルサイト上で公開された直後から反響を呼び、全国放送のバラエティ番組で取り上げられたり、新聞で紹介されたりと、何かと話題になっているのだ。
授賞式が始まり、クラブン社長の伊澤正信さん(愛称:ジョージ)に表彰状が授与される。次いでトロフィーを授与したのは、AKB48のTeam8のメンバーで香川県出身の行天優莉奈さんだ。
こう言っては失礼なのだが、たかが地方の中小企業の社歌の話題である。その授賞式に報道陣が多数訪れ、国民的アイドルグループの1人が授賞式に駆けつけるというのは、どういうことなのか。
社歌がこれほどの注目を浴びているという事実に、会場の片隅にいた私は圧倒されていた。
しかも、この物々しい雰囲気の中で「まさかラップで全国コンテストの大賞に選ばれるとは、びっくりギョーテンです!」と、AKB48の行天さんの名字にひっかけてジョークを飛ばすジョージ社長は、ロイヤルブルーのスーツと鮮やかな黄色のネクタイの装いといい、タダ者ではない。
やがてスーツ姿の男性社員7人が、ジョージ社長、行天さんとともに取材陣の前にずらりと並んだかと思ったら、受賞作品の『社歌ラップ』の実演が始まる。
「アーユーレディ~?」「イエ~~!」のヒップホップ調のかけ声とともに、スーツ姿の社員たちが軽快なリズムに体を揺らし、手拍子を打ちながら歌いだした。
時には手のフリをまじえてノリノリで歌う姿に、マスコミ陣も思わず苦笑している。これが今日だけのパフォーマンスというならまだ分かるが、クラブンでは週3回、この社歌を朝礼の時にそろって歌っているというのだ。
3分ほどの実演を終えた後、報道陣の間には「これが社歌なのか?」というふんわりとした違和感が漂っていた。
AKB48の行天さんが記者の質問に答えて「社歌って学校の校歌みたいなお堅いものかと思っていたけど、まさかこんなノリノリの曲だとは思いませんでした。社歌のイメージが覆りました」とコメントすると、会場に笑い声が起こる。
しかし当のジョージ社長は「歌いやすさとラップ調をどうやって両立させるかというところが難しかった。これからもう少し激しいラップにバージョンアップしたい」と少し悔しそうに語るではないか。
社歌をラップ仕立てにしようと提案したのはジョージ社長本人だったという。それを受けて詞や曲作りほか、音のトラックづくりを担当したのは、アマチュアDJとして活躍する社内の若手社員など7人。プロに頼らずすべて社内で作り上げたという。
「うちの会社には音楽や映像に詳しい“タレント”が揃っているんです」(ジョージ社長)
制作期間中は、社長と7人の社員が何度も話し合いながら仕上げていったという。ラップの曲調もさることながら、動画がまた目を引く内容になっている。
若手からベテラン社員まで次々と登場し、フリを披露する。途中で金髪のカツラ姿で踊る社員の姿も登場するという遊び心満載の映像である。その動画の制作も社内のシステム担当で、動画編集が得意な社員が作り上げた。