登場以来、急激にユーザーを増やしているIQOS
今年7月、都内のたばこ店で「30日、IQOS入荷!」と赤字で書かれた紙が張り出される光景が目についた。生産が追いつかず店頭から姿を消しているIQOSの入荷日を、愛煙家たちに広く知らせているのだ。
2年ほど前から、斜陽産業と言われて久しいたばこ業界がにわかに活気づいている。
2014年11月、フィリップ モリス インターナショナル(PMI)が、20年の歳月と20億ドル(約2000億円)という巨費を投じて開発した「IQOS」を、世界に先駆けて日本の名古屋で試験的に販売した。
以来、愛煙家の注目を集め、9980円という高額な商品であるにもかかわらず飛ぶように売れているのである。
名古屋での好調ぶりにフィリップ モリス ジャパン (PMJ)は、2015年9月1日、全国12都道府県での販売を開始。そして今年の4月18日から全国47都道府県で販売を始めたのだ。
販売促進のために発行した4600円オフクーポン(2016年9月現在は3000円オフ)の効果もあり、販売スタート直後からPMJが想定していた以上のペースの売れ行きが続き、瞬く間に店頭から姿を消してしまった。それからは生産が間に合わない状態が数か月も続いている。
かつての人気ゲームソフトや新型「iPhone」の発売時のように、ユーザーが次の出荷日を待ち望んでいるのだ。
それもそのはず、PMJによれば、東京地域でのIQOSユーザーは、発売後1年を待たずに急増し、「ヒートスティック」のシェアは5%に達している。1万円弱という価格を考えれば、PMJもこれほどのハイペースで売れるとは想定していなかったのだ。うれしい悲鳴を超え、せっかくの好機に商品を打ち出せないジレンマの中にいる。
こうした状況をPMJはどのように感じているのだろうか。PMJのポール・ライリー社長は「フィリップモリスに入社して今日までの28年のキャリアの中で、これほどうれしく、エキサイティングな日々はなかった」と喜びを素直に語る。
というのも、IQOSが東京で発売された昨年9月から今年6月までに、全たばこ銘柄のうち約5%のシェアを獲得しているからだ。これまで新銘柄を投入して年間で0.4%のシェアを獲得できたら、お祝いのパーティーをしていたというから、5%という数字は桁違いである。
しかも、世界中で規制される対象であり、数十年にわたって生産本数を減少させてきたたばこ産業にとって、これほどの成長は奇跡と言っていい状況なのだ。