日本の大企業の間でオープンイノベーションの気運が高まっている。日本企業はなぜ外部との協業をこれまで以上に求めるようになったのか? イノベーション研究の第一人者、米倉誠一郎氏が、経営学、経営史の観点からオープンイノベーション隆盛の背景と必然性を解説する。(JBpress)
新しく出現した社会経済環境
今、なぜオープンイノベーションなのか?
答えは簡単である。1社だけでイノベーションを完結することが技術的にもコスト的にもきわめて難しくなったからである。逆にいえば、外部の知識や経営資源を使ったほうが、より速く、より安く、より効果的に新しいイノベーションを遂行できる社会経済環境が出現したということである。
情報通信技術の目覚ましい進化とそれに伴う社会制度に大きな変化が始まった。1960年代以降に本格的に登場したコンピュータは80年代にパーソナライズされ、情報処理の分散化を急拡大した。そこに登場したのがそれらを縦横無尽に繋ぐインターネットであった。この技術進化が20世紀の内部化優位性のパラダイムを根底から覆したのである。
(1)技術進化の加速化と複雑化
まず、技術進化のインパクトについて考えてみよう。近年の情報通信技術の進歩と変化は速くて複雑である。とくに、インターネットが出現してからの技術進化の速度はさらに加速化されている。インターネット関連の技術は経営効率や商取引効率を限られた巨大組織や既得権益組織の情報管理者から奪還し、再び中小企業やスタートアップスをはじめとする多くの市場参加者に返還させたのである。
こうした現象をアダム・スミスの「神の見えざる手」とアルフレッド・チャンドラーの「経営者の見える手」の議論をふまえて、「消え行く手(vanishing hand)」の時代と表現したのはコネティカット大学のリチャード・ラングロアであった。