会社の役割は社員の望む環境を用意すること

 キューブはフィリップモリスが、4500億円という巨額を投じて設立した最先端の研究施設だ。世界から選りすぐりの科学者や技術者ら約430人が集う。働く人の国籍は50か国に及ぶ。

 佐藤さんはここで働く唯一の日本人であり、唯一の営業出身者。「なんで営業の人間がここにいるんだ?」という声を佐藤さん自身も耳にするというアウェイな環境のようだ。

 しかし、ここでの勤務を希望したのは佐藤さん自身だった。なぜスイスでの勤務を希望したのか。

 「これからの自分のキャリアに強い危機感を覚えていたからです。ずっと営業の仕事をしてきましたが、40歳を目前にして、自分には営業でトップに立てるほどの資質がないということに気づきました」

 「今後も会社から必要とされる人間になるには、営業以外のところで新しい力を身に着けるしかないという切羽詰まった思いがありました」

 「そこで海外赴任の希望を出したのですが、もともとは営業部門のある台湾の会社への異動願いを出していたんです」

 「ところが昨年、上司から『スイスに行ってみないか』と声をかけられ、迷うことなく『行きます!』と答えました」

 新しい武器を身に着けるために、海外赴任を選んだのは、世界を舞台に仕事ができる英語力が必要だと考えたからだ。

 「これからビジネスマンとして働いていくうえで、英語力は必須。それも待ったなしの状況です。今、英語力を身につけなければ自分の未来はないと思っていました」

 慣れない土地で慣れない仕事をするだけでも大変なはずだが、佐藤さんは週に1回、英語力を鍛えるための特別プログラムを受けている。それも佐藤さんが会社に希望を出して実現したものだ。