「こちらで仕事をしてみて、人への気づかいとか物事に対する丁寧さといった点では、日本人は優れているなと思います。こちらで学ぶことはたくさんありますが、逆に日本のいいところは、積極的に伝えていきたいです」

 佐藤さんの赴任期間はあと半年。「日本人はやっぱり違う」と言われるような、いい仕事を残して帰りたいと意欲を燃やしている。

働き方はオーダーメイドでつくるもの

 今回のフィリップモリスの取材を通じて改めて気づいたことは、働き方とは本来、働く個人が考え、選ぶべき問題であるということだ。

 ところが日本では働き方を考えるのは、企業の役目になっていて、議論をするうえで働く人の声が反映されていない。

 一方、企業では今、ガバナンスの強化が課題となっており、個人の裁量部分を拡大することも難しい状況だ。企業が制度を見直すことで変えていく部分と、個人の事情によってフレキシブルに変えられるよう自由裁量を認める部分と、そのバランスが問われている。

 そのバランスを調整するうえで、カギとなるのが会社のビジョンである。

 働き方とは会社のビジョンと密接に関係しており、その会社の事業内容やビジョンに適した働き方を、会社が試行錯誤しながら創り上げていくしかない。

 キューブはIQOSを開発することに成功したが、すべての研究機関がキューブを見習うべきだとは言えない。何を開発するためにどんな働き方をしてもらうのかによって、レイアウトも勤務体系も変わるはずだからだ。

 つまりイノベーションを起こすための働き方は、やはりオーダーメイドであることが原則だということである。

 その意味からもう1つ大切な観点が浮かび上がってくる。働き方を改革するということは、会社を改革することにほかならないということである。

 会社の未来像もなく、ただ社員にとって快適な働き方を提示するだけでは、社内を混乱させるだけに終わってしまう可能性が高い。

 実は、働き方改革で企業に問われているのは、自社をどのように変革していくのかという、未来へのビジョンだ。

 明確なビジョンを打ち出すことで、そのビジョンに共感した人がその会社に集まり、ビジョンに合った働き方によって彼らにパッションがもたらされ、個々の成果の積み重ねによって組織全体でビジョンを実現していく。それは会社変革のプロセスそのものである。

 その事業は何のためにあり、何を成し遂げようとしているのか、そのために会社はどう変わるべきなのか。

 イノベーションを生む働き方とは、その問いかけから導き出されるものに違いない。