マンションを販売したヒューザー側には、引き渡しから10年間は、構造耐力上主要な部分に瑕疵があった場合には、責任を負う義務がある。会社がその負担も相当のものが予想されたが、この時、建築確認制度の不備に原因があると見通した小嶋は、国や自治体を相手取って集団訴訟する覚悟を顧問弁護士に告げている。おそらく弁護士は「そうなれば会社もタダではすまない」とでも言ったのだろう。小嶋はすぐ「存続はもうできないものとして、僕はもう諦めていますけどね。これは相当重い判断ですけど」と打ち明けているのだ。
さらに前述の子会社の役員に対しては、「ひっどい話になったねー。まぁなんか、順調すぎて気持ち悪いとは思っていたんだけどさ」「俺は元の無一文だ」と感情を荒げることもなく、淡々と語っている。
この時はまさか自分が逮捕され、有罪判決を受けることまでは予想していなかったのだろうが、会社や財産を失うことがほぼ明らかになっている状態でのこの冷静さは特筆に値する。
この音声データをきちんと聞けば、小嶋が「ゼネコンや設計士とグルになって強度不足のマンションを売りまくった悪人」でもなければ、「耐震偽装を知りながらマンションを客に引き渡して代金を騙し取った悪徳業者」でもないことは容易に判断できるはずだ。
だが、この音声データは、裁判では証拠として採用されることはなかった。検察が強く反対し、裁判官が職権証拠調べをしようとしなかったからだ。
「日本という国はまともな国だと思っていたんですけどね。裁判は真実を追求する場所じゃなかった。検察が描いたストーリーに都合のいい証拠だけ取り上げ、都合の悪い証拠は見向きもしない。まさかこんなひどい裁判がまかり通っている国だとは思いませんでした」
2011年12月、最高裁は小嶋の上告を棄却。執行猶予付きの有罪刑が確定した。その執行猶予期間も、2016年の12月で終わった。
自分以上の理不尽に直面した原発被災者
話を現在に戻そう。
太陽光発電との関わりは、経営不振に陥った太陽光発電を手掛ける友人の会社の救済を頼まれたことから始まった。
しかし、小嶋は不動産管理の仕事で、食うには困らない生活をしている。太陽光発電は、電気の固定買い取り価格が徐々に引き下げられ、旨味が少なくなりつつある。なぜ儲けの見込めない太陽光発電にのめり込むのか。
「僕は罪なき罪を着せられ、犯罪者に仕立て上げられました。こんな理不尽なことはないと思っていたわけなんですけど、福島の原発事故で住む場所も奪われた人々のほうがよほど理不尽な境遇にあると気づいたんですね。しかも国は、あれほどの事故を起こしておきながらまだ原発を捨てようとしない。そのうえ、与党の幹部が『潜在的な核抑止力のために原発はあったほうがいい』なんて堂々と発言するようになっているでしょう。この国はどうなっちゃっているんだと思いますよ」