小嶋が語るところによれば、新婚夫婦の部屋にダラダラ居続けるのが気まずく、消火器販売のアルバイトをしたところ、大卒初任給の10倍くらいの給料を稼ぐようになったが、いきなり大金を稼いだことで、大学進学に意味を見つけられなくなった。

 一方で消火器販売は順調だったが、一定地域で売りつくすと、また次の地域へと転戦していく商売のやり方に不安を感じるようになる。

 紆余曲折の末、20歳のころ、新聞の求人広告を見て東京の会社に就職。そこは先物取引の会社だった。

着の身着のままタコ部屋から遁走

 小嶋ら営業部隊の社員は、上司の監視のもと、狭いアパートでタコ部屋生活を強いられつつ、昼は飛び込み営業に当たらされた。商品相場に興味のない一見の相手に、「儲かりますから」と言って口座を開かせる仕事は簡単ではない。大半の客は大損を被る。相場が大きく下がれば、損をした客のところに行って追証(追加証拠金)をもらわなければならない。

「同僚が客のところに追証をもらいに行くのに付いていったことがあります。彼は、以前に、追証をもらいに行った先で日本刀で切りかかられそうになったことがある。その時に、『あなたが切ったら犯罪になります。私に切らせてください』と言って、その日本刀で自分の腹を横一文字に切ったことがあった。かわいい顔をしているのに肚の座った男でした。

 私が同行した時も鉄工所の社長が怒って鉄パイプで殴りかかってきたんですけど、その同僚は『殴ってください!』と叫んだんです。そうしたら相手はその気迫に押されてたじろいじゃった。そうやって追証をもらってくるんですね」

 しかし、そんなセールス術は誰もがまねできるものではない。精神的に追い詰められ、辞めたがる社員が続出したが、「辞めたい」と上司に告げると「お前、今まで客を何人殺したんだ。まだ客を殺したこともないのに、偉そうなことを言うな」と言って殴られ、退職させてくれない。地獄だった。小嶋もどうにかして辞めたいと願う毎日だった。

 しかし、1年ほど経った、ある日、小嶋たちの上司がそのまた上司を殴り、警察の世話になった。その隙に小嶋は着の身着のまま、タコ部屋を逃げ出した。