「この太陽光発電所、私は自分の墓だと思って作っているんですよ」
茨城県小美玉市で手掛けた、完成目前の太陽光発電施設のパネルの前で、ヒューザー元社長の小嶋進はそう言って笑みを浮かべた。小嶋が数名のスタッフとともに、1カ月がかりで組み立てた発電施設だ。それにしても、太陽光発電所が自分の墓とはどういう意味なのか。
「今はなかなか先祖の墓参りなんて行かないじゃないですか。だから孫たちが将来、墓参りの代わりに、年に2回くらい草刈りがてらここに来て、『ジイさんの時代には原発なんて物騒なもので電気を賄っていた時代だったらしいけど、そんな時代にジイさんはいいものを残してくれたな』なんて思い出してくれたら嬉しいな、と。それに、やっぱり原子力に頼らない時代を作りたいじゃないですか」
2005年から2006年にかけて世の中を騒然とさせた、いわゆる「耐震偽装事件」。当時、事件の“主役”の1人として、マスコミから激しいバッシングを受けた小嶋は今、太陽光発電に心血を注いでいる。
小嶋は現在、東京・大田区にある不動産の賃貸・管理を行う小さな会社で働いている。代表を務めるのは小嶋の実弟。耐震偽装事件以降、小嶋はそこの従業員という扱いだったが、昨年(2017年)暮れからは取締役に名を連ねるようになった。
「不動産を扱う会社ですが、仕事量で言えば今は9割がエネルギーで、不動産関係は1割。ただ売上で言ったら、エネルギーは1・数%で、99%近くが不動産です。全然儲からない仕事ばかり増やしてます(笑)」
突如、事件の「首謀者」に
マンションデベロッパーの社長だった小嶋が、なぜ儲からない太陽光発電に取り組んでいるのか。その理由を語る前に、まずはあの「耐震偽装事件」をざっと振り返ってみよう。
ことの発端は、2005年10月、民間の建築確認検査機関・イーホームズ宛てに、外部の設計事務所から入った情報提供だった。それは、イーホームズが確認済み証を交付した足立区のマンションに構造設計の改ざんが認められる、との指摘だった。この物件の建築主が小嶋が社長を務めるヒューザー、構造設計を担当したのが一級建築士(当時)の姉歯秀次だった。
翌11月、国交省は、姉歯が構造設計書を偽造していたと公表。一気に世の中の注目を集める事件となった。
突如、世間を揺るがす事件の“主役”となったのは、構造設計書を偽造した姉歯、偽造を見逃していたイーホームズの藤田東吾、姉歯の構造設計所に基づき耐震強度不足のマンションを多く手掛けていた木村建設の社長と東京支店長、そして建築主・ヒューザー社長だった小嶋の5人だった。