木村建設と組んだヒューザーは、首都圏で100平米超のマンションを次々と手がけ、みるみる売り上げを伸ばしていった。ついには本社オフィスを、東京駅の目の前にあるパシフィックセンチュリープレイス丸の内の最上階に構え、”事件”直前の2005年3月期には売上高121億円、経常利益19億円をマークするほどにまで成長した。ヒューザーは、学歴もない地方出身の小嶋が、裸一貫から築いた“城”だった。
だがこの城は、孫請けで構造設計を担当していた姉歯の偽造により、一気に崩壊していった。小嶋にとっては完全な「巻き込まれ事故」だったが、会社と財産を失い、そして別件逮捕により「犯罪者」の烙印を押された。
無実を証明する「録音データ」
実は小嶋には、「無罪」を証明する決定的な証拠があった。
小嶋が、耐震偽装の事実を直接知ったのは、2005年11月の国交省発表の3週間前となる10月27日。イーホームズの藤田らがヒューザーを訪れ、当時把握していた実態を告げた日だった。
この日、藤田との面会を終えた後、小嶋は銚子へ知人の通夜に出かけている。その車中で、小嶋は関係各所に電話し、事実の報告や部下への指示出しを行っている。その内容を、同乗していた子会社の社員が録音していたのだ。
小嶋が電話でしゃべる声を、携帯電話のボイスレコーダー機能で録音していたので、相手の会話は記録されていないが、小嶋の声はしっかり入っている。
実はこの音声データは、一般にも公開されている。事件前から小嶋と親交のあった有川靖夫(元公明党・大田区区議会議員)が2010年8月に著した『国家の偽装――これでも小嶋進は有罪か』(講談社)の付録CDに収録されているのだ。
そこに記録された小嶋の会話は衝撃的な内容だ。
小嶋は、顧問弁護士や木村建設東京支店長らに、イーホームズから聞いた話を報告した後で、マンション販売を担当する子会社の役員に対して、こう指示を出している。
「売れていないやつに関してはさ、姉歯構造のやつは、とりあえず販売中止」
「それと契約終わっているものに関しては、まだ引き渡ししていないものに関しては、金を返して解約の準備をとりあえず進めて、その一覧表を作ってくれや」
「だから積極的な、姉歯の分に関してはさ、販売とりあえず中止だ」
「あと新しい販売は、だから、しないと、基本的に」
ここまで明確に指示しておきながら、翌10月28日、完成していた藤沢のマンションが顧客に引き渡されていた。部下が小嶋の指示をしっかり把握していなかったことが原因だろう。このことにより、小嶋は「強度不足を知りながら藤沢のマンションを顧客に引き渡し売買代金をだまし取った」として詐欺で有罪判決を受けることになってしまうのだ。
だがCDを聞いてそれ以上に驚かされるのは、姉歯の構造計算書偽造を知ったこの日のうちに、小嶋が会社の存続を諦めていることだ。