ビジネス、というのは、基本的には単なる経済活動だ。モノを作ったり仕入れたりして売る。サービスを提供する。どれほど大きな企業になろうと、そういう基本的な部分は変わらない。お金を稼ぐために何をするのか、ということの積み重ねで、ビジネスというのは成り立っている。

 しかし、単なる経済活動でしかないビジネスという営みが、物語以上のドラマを持つことがある。利益や会社を守ろうという、感動とは程遠いように思える行動の堆積が、振り返ってみればドラマティックな物語になっていることがある。スポーツなどでは、勝つことで感動させよう、という意識で選手らが動くこともあるだろう。しかしビジネスの場合、それはない。ドラマを生もうという意識のない無名の人たちが生み出す物語は、僕らの心を熱くする。

 実在する企業をモデルにした小説3冊を紹介しよう。

梶山三郎 『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』

 この作品のモデルとなった企業名の明言は一応避けるが、タイトルを見れば一目瞭然だろう。日本が世界に誇る、あの大企業である。

 主人公は、武田剛平。彼がトヨトミ自動車の社長を務めている時代の話がメインとなる。彼は、創業家である豊臣家の出身ではない“使用人”出身の社長であり、そしてその数々の手腕から後に、「トヨトミ自動車の救世主」とまで言われるようになった傑物である。

 武田の経歴は凄まじい。本流と言われる自工(自動車工業)ではなく傍流の自販(自動車販売、販売部門が独立した会社でのちに合併)出身であり、社の上層部に睨まれ17年も経理部に塩漬けにされる。さらにマニラに左遷され、武田はマニラで終わった、と誰もが言っていたところからの社長就任である。前社長がマニラで武田を見出したことによる大抜擢だった。奇跡である。